淫者山へ乗りこむ
本文約8,900字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
結婚を控えた青年と許嫁の娘は、青年が抱く己の醜さをさらけ出そうとする歪んだ情念により、互いの心に深い溝を作っていく。青年は自らの宿命を試そうと、山中にある寂れた小屋へ娘を連れ出す。そこで情慾と葛藤の間で揺れ動きながらも、青年は本来の目的を果たせぬまま帰路につく。その後、二人は結婚するが、その生活が幸福であったかは誰にも分からない。恋と幸福が別物であることを描く物語である。
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その娘の父は独力相当の地位と富を築きあげた実業家でありました。外見は豪放磊落にみえるが実際は至つて気の小さな善人だつたのです。一見豪放の裏側では細かいことに気がつきすぎたり拘泥しすぎたりして結局大きいことができないたちの、相当のところまでは漕ぎつけるが一流の大立物にはなれないやうな人でありました。
娘に結婚の話がきまり相手の青年も選ばれてみると、この善良な父親は娘の許嫁にあまり試験官でありすぎた嫌ひがあつたやうです。もともと自分が選定し、自分からまつさき気に入つた青年であつたのに、さうして結婚の日取も定まつた後であるのに、青年を試す眼はいつかな休もうとしないのであります。さうして色々と青年の隠された心に気がつきました。
青年も外見は豪放磊落な男でありました。若者の心には仕事も終りに近づいた老人にくらべて多くの生々しい複雑が隠されてゐることは仕方がないが、この青年は見掛けが磊落なだけ包まれるものは余計に大きくもあり醜くもあり、そのうへ人を見抜く眼光も娘の父親以上に辛辣な神経ではたらく男でありました。
青年は自分の裏側の本心を看抜かれるたびに、それを隠しだてやうとはしないで却つてさらけだすやうにしました。時々は内心さうすることをてれながらも、看抜かれたものをわざと誇張して振舞ふのであります。かういふ青年のふてぶてしさは此の人の余儀ない傾向でほかに他意はなかつたのですが、これが娘の父親を苦しめる種になるのでした。