落語・教祖列伝
本文約13,700字 ・ 読了時間 約28分
あらすじ(AIが作成しました)
貧しい大工の息子・カメは、知能は低いが怪力と食欲に秀でる。山での粗食に耐えきれず城下町へ戻るが、町での生活にも馴染めず、食欲を媒介にして人間社会と関わるようになる。妻や町人との騒動の中で井戸へ飛び込むといった特異な行動を繰り返すうち、持ち前の長息法を駆使した水練の才能が露呈する。やがて専門の水練家をも凌駕するその技術が認められ、藩の指南番として召抱えられるまでの軌跡を描く。
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カメは貧乏大工の一人息子であったが、やたらに寸法をまちがえるので、末の見込みがなかった。頭が足りなかったのである。そのくせ、大飯をくう。両親は末怖しくなって、人夫をさがしていた山の木コリにあずけた。木コリが試験してみると、鋸だけはうまくひく。器用なことはできない代りに、根気がよくて、バカ力があるので、木コリには向いている。しかし、まだ十の子供のことだから、
「山へ行くと、友だちはいないぞ。人間の顔も見ることができないぞ。ムジナや蛇が親類だ。それでも我慢できるか」
「腹いっぱい食わせてくれれば、どこにでも、いられる」
それがカメの返事であった。試験に合格して、山にこもった。
山の木をきりだして、筏にくんで、両親のすむ城下町まで運んでくる。子供だから、木コリの仕事は一人前にはできないが、筏はたちまち一人前以上にやれるようになった。
しかし、筏を町へつけると、両親の顔も見ないで、山へ走って帰った。山には好物の食べ物が彼を待っている。彼はほしいものをタラフク食うことができる。町で人間どもの面相など見ていたって、腹のタシにならない。
山にいると、米の飯はめったに食えない。しかし城下の町人どもは、米の飯を食わないことには馴れている。貧乏大工の倅の彼は、米の飯を食わないことには馴れていた。タラフク食えばタクサンだ。
山にいると、食うものは算えきれない。キノコ、山の芋、ワラビ、ゼンマイ、木の実等々。しかし、彼は動物性食物をより多く好む。蛇は特に好物の一つである。蝉、トンボ、ゲンゴロウ(水虫)なども不時のオヤツとして、いける。赤蛙が、また、うまい。ムジナ、ネズミ、モモンガー、町の生活では味えない美食である。風味が変って、特によろしいのが渓流の魚で、岩石をもちあげて、カニや小魚をつかみとり、滝ツボや深い淵へもぐって岩蔭の銀の魚をつかみとる。
それから、十数年すぎた。
カメの父の大工が死んで、中風の母がのこった。町内の者は中風の母の世話が面倒なので、山からカメをつれてきた。