本文へ移動
TORENDIA

安吾人生案内

本文約7,400字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

華頂博信氏が妻である華子氏との離婚に至った経緯と、その背景にある戸田豊太郎氏との関係について論じる。華頂氏が抱く深い絶望の中で「真の自由は自律的には不自由である」と洞察し、相手をいたわりつつ決別する姿勢を評価する。また、妹の身を案じて手記を発表した兄・閑院春仁氏の苦悩や、華子氏および戸田氏の対応を分析し、人間理解の重要性を説く。本作は元宮家の私生活を題材に、人間の業や苦悩、愛と自律について綴る随筆である。

坂口安吾

速度
🎧 安吾人生案内 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 9

華頂博信氏手記

私どもの離婚は決して夫婦喧嘩ではありません。私は廿五年間命をかけて妻を愛していました。それだけに離婚の決意は、七月十八日夜自宅のクローク・ルームで戸田氏と華子との姿を発見して以来の妻の思想と言動に就いて冷静な判断を下した上でなされたものです。妻はこの事件に対して少しも悔悟して居りません。

否、寧ろ今後も婦人衛生会の仕事に名を借りて戸田氏との接触を計ろうとしているのです。私の妻は一体誰なのか――。終戦後貴方は貴方、わたしはわたし、夫婦とは単なる男女の同居という家庭が相当あるらしい。それもそんな家庭生活を喜ぶ夫婦ならばそれで済むだろう。併し私には向かない。何か自由ということのはき違えではないだろうか。自由ということを掘下げてゆくと、真の自由は自律的には随分不自由なものではなかろうか。

わずかの間に妻の性格が想像も及ばぬ程変っていたと気がついたのはあの事件以来だが、それにつけても戸田氏は一年有半に亘り華子と会う度にコーヒーの中に一滴、二滴何か女の精神を弛緩させるような薬品でも混ぜておったのではなかろうかと推理小説的空想を抱く程妻の気持は激変していた。

しかしその妻が今度のようなことになったとて社会的に傷つけられてよいと云う理由が何処にあろうか。戸田氏さえも傷つけたくなかった。私の元の妻竹村華子が再び世に出る時世間はどうか彼女を笑顔で迎えてやって欲しい。私は元の夫として、いつまでもそう祈り続けよう。

離婚は幸か不幸か。私の場合離婚は不幸そのものである事を十分承知している。私はこれですべてを失いました。日毎に健康が衰えていくのを感じるばかりです。

戸田氏の場合

戸田豊太郎氏は「閑院春仁氏の手記」(戸田氏の名前がはじめて明るみに出た)が発表された時と「華頂博信氏の手記」(七月十八日夜の事件の真相がバクロされた)が発表された二つの時期にそれぞれ次のように語っている。

坂口安吾の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本