人の子の親となりて
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
綱男という男の子が誕生したことで、犬を家族として暮らしてきた著者が父親としての戸惑いを抱く過程を綴る。自分に似た怪物が生まれるのではないかという不安や、育児への重圧から当初は子を拒絶し距離を置いていた。しかし、子が順調に成長し笑顔を見せるようになるにつれ、次第に愛情を抱き始める。異常がないこと自体を奇蹟と感じる中で、父親になったことへの実感を深め、不安を克服していく家族の心情の変化を描く。
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私には子供が生れないと思っていたので、家族のつもりで犬を飼っていた。いろいろの犬を飼ったが、最後にはコリー種に落ちついて、いまも二匹いる。
だから綱男が生れたときも、まず何よりも犬と比較して考える。仔犬は買ってきた時から人にじゃれるし旺盛な食慾があって可愛いものだが、生れたての子供は目も見えないから、反応というものがない。自分のオナカから生んだ母親はその瞬間から子供が可愛いかも知れないが、男の私にはまるで縁もなく愛嬌もない生物が突然現れてわが子を称するようなもので、はじめの一ヵ月ぐらいはいかに扱うべきか窮したのである。
むろん名前をつけてやる気にもならなかったが、女房がサイソクしてゆずらないので二週間目に徹夜して考えてつけてやった。小説の作中人物とちがって平凡でないとこまる。私の本名が炳五といい、故郷の呼び方で一般にヘゴとよばれるのが非常にイヤだった。その記憶があるので、名前でイヤな思いをさせたくないと考えて苦労した。
女房がニンシンしたとき、私は女の子が生れて欲しいと考えた。男の子が生れて、それが私に似ていたりすると薄気味がわるいし、世間では私を半キチガイ扱いしているような次第で、その悪い方によけい似ていられてはオヤジも降参せざるを得ない。幸い女にはヒステリーという万人共通の症状があって目立たないから、子供は女に限ると考え、ウブ着なども女の子の物ばかり買い調えていたのであった。
意外にも男の子が生れたので、その瞬間からいかなる怪物に育つかとそれが不安でこまったのである。とにかく鄭重に扱わなくちゃアいけないと、まるで後難をおそれるような気持で、ウバよ子守よ科学よと糸目をつけずに金をかけ手をかけてやった。その代り、オヤジの私にとっては全然面白くなかったのである。さわったこともなかった。