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TORENDIA

勝負師

本文約4,700字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

将棋一筋に生き、近代的な合理主義を超えた独自の手法を貫く坂田三吉の生き様を描く。勝負師としての苛烈な修業時代や対局で見せた奇想天外な着想、そして敗北を重ねながらも失わぬその強固な自信を軸に、執筆者が自身の青春の投影先として坂田を見つめ直す。対局者である木村八段や花田八段との対峙を通じて、天才的な棋士の孤独と、その背後に流れる痛ましい人生の苦渋、そして無我の境地で盤面に向かう二人の姿を浮き彫りにする。

織田作之助

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🎧 勝負師 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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池の向うの森の暗さを一瞬ぱっと明るく覗かせて、終電車が行ってしまうと、池の面を伝って来る微風がにわかにひんやりとして肌寒い。宵に脱ぎ捨てた浴衣をまた着て、机の前に坐り直した拍子に部屋のなかへ迷い込んで来た虫を、夏の虫かと思って団扇ではたくと、チリチリとあわれな鳴き声のまま息絶えて、秋の虫であった。遠くの家で赤ん坊が泣きだした、なかなか泣きやまない。その家の人びとは宵の寝苦しい暑さをそのままぐったりと夢に結んでいるのだろうか、けれども暦を数えれば、坂田三吉のことを書いた私の小説がある文芸雑誌の八月号に載ってからちょうど一月が経とうとして、秋のけはいは早やこんなに濃く夜更けの色に染まって揺れているではないか。そう思ってその泣き声を聴いていると、また坂田三吉のことが強く想い出されて、

「どういうもんか、私は子供の泣き声いうもんがほん好きだしてな、あの火がついたみたいに声張りあげてせんど泣いてる子供の泣き声には、格別子供が好き嫌いやいうわけやおまへんが、心が惹かれてなりまへん」という坂田の詞もふと想いだされた。

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