TRENDIA CLASSIC

織田作之助

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歳月が流れ、お君は植物のように成長した。一日の時間を短いと思ったことも、また長いと思ったこともない。終日牛のように働いて、泣きたい時に泣いた。人に隠れてこっそり泣くというのでなく、涙の出るのがたゞ訳もなく悲しいという泣き方をした。自分の心を覗いてみたことも他人の心を計ってみたこともなく、いわば彼女にはたゞ四季のうつろい行く外界だけが存在したかのようである。もとより、立て貫ぬくべき自分があろうとは夢にも思わず、あるがまゝの人生にあるがまゝに身を横たえて、不安も不平もなかった。境遇に抗わず、そして男たちに身を任せた。蝶に身を任せる草花のように身を任せた。

三十六才になって初めて自分もまた己れの幸福を主張する権利をもってもいゝのだと気付かされたが、そのとき不幸が始まった。それまでは、「私ですか。私はどうでも宜ろしおます」と口癖に言っていた。お君は働きものであった。

娘の頃、温く盛り上った胸のふくらみを掌で押え、それを何ども/\繰り返して撫でまわすことをこのんだ。また、銭湯で湯舟に永く浸り、湯気のふき出している体に冷水を浴びることが好きだった。ザアッと水が降りかゝってあたりの湯気をはらうと、お君のピチ/\と弾み切った肢体が妖しくふるえながらすくっと立っている。官能がうずくのだった。何度も浴びた。「五辺も六ぺんも水かけますねん。立った儘で。良え気持やわ」と彼女が夫の軽部武彦に言った時、若い軽部は顔をしかめた。彼は大阪天王寺第三小学校の教員であった。お君が彼と結婚したのは十八の時である。

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