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TORENDIA

鬼

本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

辻十吉は文壇で活躍する作家だが、周囲からは金にがめつい男だと誤解されている。しかし実際は、仕事に没頭するあまり自身の生活や金銭管理を極端に放置する性分であり、郵便局の手続きや銀行取引すら面倒がる日常を送る。亡き妻が管理していた金銭すら手つかずのまま、執筆に必要な煙草代に事欠くほど困窮する生活実態が明らかになる。仕事以外のすべてを疎かにし、生活の困窮さえも小説の着想源に変えていくその姿を描く。

織田作之助

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🎧 鬼 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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一

はじめのうち私は辻十吉のような男がなぜそんなに貧乏しなければならぬのか、不思議でならなかった。

人は皆彼のことを大阪人だと言っている。大阪生れだという意味ではない。金銭にかけると抜目がなくちゃっかりしていると、軽蔑しているのである。辻という姓だから、あの男は十にをかけたような男だと、極言するひとさえいる位だ。

それはひどいと私はそんな噂を聴いた時思った。しかし、彼の仕事振りを見ていると、やはり金銭のために堕落しているのではないだろうかと、思われる節がないではなかった。

彼が風変りな題材と粘り強い達者な話術を持って若くして文壇へ出た時、私は彼の逞しい才能にひそかに期待して、もし彼が自重してその才能を大事に使うならば、これまでこの国の文壇に見られなかったような特異な作家として大成するだろうと、その成長を見守っていたのだが、文壇へ出て二三年たたぬうちに、はや才能の濫費をはじめた。

達者で、器用で、何をやらせても一通りこなせるので、例えば彼の書いた新聞小説が映画化されると、文壇の常識を破って、自分で脚色をし、それが玄人はだしのシナリオだと騒がれたのに気を良くして、次々とオリジナル・シナリオを書いたのをはじめ、芝居の脚本も頼まれれば書いて自分で演出し、ラジオの放送劇も二つ三つ書きだしているうちに、その方でのベテランになってしまい、戦争中便乗したわけでもなく、また俗受けをねらう流行作家になったわけでもないのに、仕事の量は流行作家以上に多かった。空襲がはげしくなって雑誌が出なくなっても、彼は少しも閑にならず、シナリオやラジオドラマや脚本の執筆に追われて、忙しい想いをしていた。

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