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TORENDIA

最初の悲哀

本文約810字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

貧しい町絵師の父を尊敬し、二人で幸福に暮らす少女・街子。稲荷の祭りで、父が描いた行燈が道行く人々に称賛される様子に喜びを感じていた。しかし、地口行燈を見て嘲笑う同級生たちの言葉を耳にした街子は、誇り高き父の仕事が否定された現実に直面し、初めて深い悲しみを抱く。貧しさの中で育まれた家族の絆と、多感な時期に訪れる心の傷を静かに綴る。

竹久夢二

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🎧 最初の悲哀 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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街子の父親は、貧しい町絵師でありました。五月幟の下絵や、稲荷様の行燈や、ビラ絵を描いて、生活をしているのでありました。しかし、街子はたいそう幸福でした。というのは、父親は街子を、このうえもなく愛していたし、街子もまた父親を世の中で一番えらくて好い人だと思っていました。母親が早くなくなったので、街子は小学校を卒業すると、家にいて、父親のため朝夕の食べものをつくったり、洗濯をしたり、夜おそく父親が仕事をするときに、熱いお茶を入れたりしました。家の外を風が吹くように、貧しいことなどは、ちっとも苦労ではありませんでした。

父親も街子も、ほんとに幸福そうでありました。

何よりも好いことに、街子は父親の仕事を好きなばかりでなく、父親の技倆を尊敬さえしていたことです。

ところが街子にとって、容易ならぬ悲みが一つ出来たのであります。それは稲荷様の祭の日のことでありました。毎年の習で、ことしも稲荷様の境内から町内の掛行燈の絵は、みんな街子の父親が描いたのです。地口行燈と言って、おどけた絵に川柳など添えてかいてあるもので、通る人は一つずつそれをよんで見て喜んでいました。仕立おろしのセルをすらりときた若い奥様に、「どうだ、愉快だね。こんな風な絵は国宝だよ」そう言って見てゆく旦那様もありました。

街子はそれをきいてこのうえもなく幸福で、「それはあたしの父さんが描いたんですよ」そう言いたいほどでした。

ところが街子とおんなじ年に小学校を出て、いまは女学校へ上っているお友達が三人、やはり地口行燈のまえに立っていました。街子はなつかしくて傍へよってゆきました。するとその時、三人はどっと笑い出しました。

「なんて古くさい絵でしょう」

「馬鹿にしてるわ」

「この眼はどうでしょう」

そんなことを言いながらまたころげるように笑っていました。

それを聞いた哀れな街子は、人の影へかくれるようにしながら、家の方へ駈け出しました。それが街子の最初の悲みでありました。

完

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