怪青年モセイ
本文約1,500字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
香椎山中に住む「私」のもとに、文壇の大家と信じていた夏冬繁緒、河東茂生らが同一人物であるという、十八、九歳に見える不思議な青年が訪れる。文壇の知識に飢えていた「私」は、親切に語る彼に幻滅と同時に強烈な懐かしさを覚え、原稿を書く姿を眺めながら彼の多様な変装を妄想する。日が暮れるまで語り明かした末、国道へと消えゆく青年の後ろ姿を見送り、その類稀なる人物像に想いを馳せる。
💰 この本を応援する(投げ銭)
夏冬繁緒、河東茂生、滋岡透、そのほかいろいろ……田舎者の私は、みんな別々の人間のペンネームかと思っていた。それぞれ文壇の大家としての敬意を心の中で払っていたら、それがタッタ一人の姿になって、香椎山中の私をヒョッコリ訪問してくれた。
せいぜい十八、九ぐらいに見える、スラリとした、鼻の左右にニキビのパラパラと出来た青年であった。極めて粗末な大学生の服を着ていた。霜降りと黒ズボンの……帽子と持ち物は記憶しない。持っていなかったのかも知れぬ。
私は眉に唾をつけたくなった。けれども取りあえず縁側に頭をスリ付けた。油断がならない……と思いながら……。
青年はノコノコ上って来た。
「来よう来ようと思いながらツイ失敬しました」
と極まりわるげに笑いながら、書生ッポらしいお辞儀をヒョイとした。
私は幻滅の悲哀を感じた。生まれて初めて会う文壇人に対する期待が皆外れてしまったので……けれども、それと同時にこの青年がタマラなくなつかしい人物に見えて来たのは不思議であった。十分間ばかり話しているうちに、お互いの年を聞き合って大笑いをする位に親しくなった。「二十三と四十……チョット倍ですね」……なぞと……。
文壇の知識に飢え渇いていた私は、あばら屋の中で黴臭い紅茶をすすめながら、次から次へと愚問を連発した。青年はどこまでも親切に、まじめに答えてくれた。「猟奇」誌上で私をコキ下したり、コキ上げたりしてヒヤヒヤさせた辣文家とは夢にも思えない。私はいよいよ面喰らいながら、貝殻のように聞き惚れた。
「本名の河東茂生を本当に読んでくれる人は殆どないのです。手紙でも河東茂とか河東茂夫とか書いて来るのが大部分です。そうかと思うとカトウモセイとかカワヒガシシゲルなんて御丁寧な電報をよこす奴があったりしてね……」
とだんだん言葉つきが書生丸出しになる。こっちも山男の正体を現わしてゴロリと横になってしまう。
「チョット失敬して原稿を書きます」
と言ってモセイ君は「猟奇」の黄色い原稿紙を取り出した。書いては破り、書いては破りし始めた。十年も前から一緒の下宿にいる気持になりながら、私はウトウ卜する。