涙香・ポー・それから
本文約2,000字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
探偵小説作家と称されることへの戸惑いを吐露しつつ、自身の読書体験や探偵趣味の芽生えを回顧する。幼少期の冒険小説への傾倒から、涙香やポーとの出会い、宗教への傾倒を経て創作に至るまでの遍歴を綴る。本格的な探偵小説の定義や創作の困難さに悩みながら、自身の探偵小説に対する姿勢や作家としての心境を率直に描き出す随筆。
💰 この本を応援する(投げ銭)
探偵小説作家なぞと呼ばれて返事を差出すのは、如何にも烏滸がましい気がして赤面します。けれども元来が探偵小説好きなのですから、ソウ呼ばれますと何がなしに嬉しいことも事実です。
ところで私は今でも探偵小説の定義がわからずに困っているのです。阿呆らしい話ですが、自分の書いているものはドンナ種類に属する小説だろうかと時々疑ってみる事さえあります。そうして漠然ながら、これでも探偵小説に入れられぬ事はあるまい……といったようなアイマイな、コジツケ半分の気持ちで満足して、自分勝手な興味を中心に書いている状態です。
私が一番最初に読んだ探偵小説は、涙香の「活地獄」だったと思います。モット古い記憶にさかのぼりますと私は十歳前後から、読んではいけないと叱られ叱られ新聞を読んでおりましたが、そのたんびに、新聞記者というものは、どうしてコンナに色んな事を探り出すのか知らん。エライものだナアと思って感心していた気持ちなぞが、探偵小説愛好慾の芽生えだったかも知れません。
動物園に行って、奇妙な恰好をして生きている動物たちの気持ちをアッケラカンと考えてみたり、郵便屋さんが家々に投げ込んで行く手紙が、どこから来るのか一々たしかめてみたくなったり、千金丹売りや新四国参りのお遍路さんは、どこから来てどこへ帰るのかと、うるさくお祖母さんに尋ねたのもその前後の事でした。
又、尋常科三四年頃、小国民とか、少年園とかいう雑誌があった。科学めいた怪奇談や、世界珍聞集みたようなものが載っておりましたが、これも探偵趣味の芽生えを培ったに違いありません。そのほか少年世界のキプリングもの、磯萍水や江見水蔭の冒険もの、単行本の十五少年漂流記なぞも無論その頃の愛読書で、どこの発行でしたか、何々少年と標題した飜訳の少年冒険談が、全集式の単行本によって出ていたようですが、そんなものも押川春浪の冒険談と一緒に二十冊ばかり虎の子のようにしておりました。