塵
本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
空を染め、人の営みや芸術を曇らせる無数の塵の様相を綴る。都会では果物や聖職者の祈り、貴人の自動車から乞食までを皮肉に覆い、田園では祭りの風景や時計屋の日常を古びさせながら、この世のすべてを無へ帰す存在として描写する。文明の悲哀や歴史の変遷さえも飲み込み、渦巻く塵を無形の偶像と捉え、それが喜劇なのか悲劇なのか、あるいは造物主そのものなのかを問いかけ、生命と共に滅びゆく世界のありようを詩的に探求する。
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塵だ。塵だ。おもしろい、不可思議な、無量無辺の塵だ。
大空を藍色に見せ、夕日を黄金色に沈ませ、都大路の色硝子に曇って、文明の悲哀を匂わせる。
広大な塵の芸術だ。
深夜の十字街頭に音もなく立ち迷うて、何かの亡霊に取り憑かれたかのように、くるくるくると闇黒の中に渦巻き込む塵の幾群れが見える。それはちょうど古い追憶の切れ目切れ目に、われともなくわれ自身を逃れ出して行く、くるしみの幾群れに見える。
モノスゴイ塵の象徴力である。
店の先に並んでいるいじらしい果物たちの上から、その並んでいる事が罪悪であるかのように、白い塵がコッソリ蔽い冠さって来る。そのマン丸い、うるうるした瞳と新鮮な頬の輝やきを曇らせて、はかなくも白け渡った投影を仄めかす。ことさらに瓦斯の灯の青ざめ渡る夏の夜になると、それらの水々しい処女と童貞たちの臍の中を、一つ一つ灰色の垢に埋めて、さもなくとも明け易い夜もすがらを、おのがじしに咽び歎かせるのだ。
意地の悪い、痛々しい塵の戯れではある。
塵は都会の哀詩である。
構い手のない肺病娘のホツレ毛に引っかかって、見えるか見えないかにわななきふるえつつ、夢うつつのように紅い紅い血を吐き続けさせ、旧教会のステインドグラスに這い付いて、ありがたいお説教の余韻を薄曇らせ、聖書の黒い表紙の手ざわりにザラめいては、祈る者の悲しみをためらわせる。
貴人の自動車を追いかけたあとで、すぐに乞食老爺の喘息に襲いかかり、さらに、病院のカアテンから忍び入って、患者が忘れて行ったヒヤシンスの萎れ花に寄りたかり、いつの間にか応接間の油絵の額縁に泌みにじんで、美しい表情を疲れ弱らすかと思えば、又もや、遠い銀座の百貨店の前を慌しく走り過ぎて、めんくらった虚栄の横顔たちを真剣な形に引き歪める。何という皮肉な塵の思い付きであろう。
塵は又、田園の挽歌だ。