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TORENDIA

香熊

本文約7,800字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

釣り人である語り手は、北海道で捕獲された羆の肉を入手する。幼少期の熊との交流や、山村の医者である義弟と食べた月の輪熊の記憶を辿り、野獣特有の土の香を懐かしむ。友人らと共に料亭へ肉を持ち込み、料理人に調理を依頼するが、徹底した下処理により土の匂いが消え去り、牛肉の煮込みのような味わいに仕上がってしまう。語り手は、野趣あふれる熊肉の真の風味を求めて、現地で猟師が賞味したであろう熊の掌の味に想いを馳せる。

佐藤垢石

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一

このほど、友人が私のところへやってきて、君は釣り人であるから、魚類はふんだんに食っているであろうが、まだ羆の肉は食ったことはあるまい。もし食ったことがないなら、近くご馳走しようではないかというのだ。

そうかそれは耳よりな話だ。馬の肉、牛の肉、豚の肉は世間の誰でも食っているから、これは日本人の常食だ。ところで僕は若いときからいかものが好きであって、永い年月の間に鹿、狸、狐、猿、鼠、猫、栗鼠、木鼬、羚羊、犬、鯨、海狸、熊、穴熊、猪、土竜など、内地の獣類は、いろいろ食べたことがある。だが、不遇にも羆の肉だけは、いまもって食ったことがない。

獰猛にして巨大、しかも狡猾にして人間の肉と、馬の肉を好むという羆は、一体どんな肉の味を持っているのだろう。早く、食べてみたいものだと友人に答えた。

こう約束して四、五日過ぎたが、なかなか羆料理ができるから駈けつけろ、という知らせがこない。そこで私は、鳴る咽を押さえながら友人のところへ押しかけて行き、君、羆をいつ捕ってくるのだい。先日の話は嬉しがらせの駄法螺だろう。常識で考えてみても分かるが、あの狂暴な羆がちょいとのことで、君らの手に入らないのは知れている。

嘘なら嘘と、ここで白状してはどうかと詰めよせると、からからと笑って友人が答えるに、あれは僕が山へ行って撃ち獲ってくるという話ではない。実は、報知新聞社が熊狩隊を組織して北海道へ押し渡り、アイヌの名射手三名に内地人の猛獣狩り専門家二名を加え、それに勢子二十人ほど集めて、苫小牧の奥、楢前山の中腹へ分け入り、今熊狩りの最中だ。四月上旬、吹雪のなかで一頭の黒熊を撃ち止めたという報せがあったから、その肉を送ってくれと電報したところ、それは我々射手と勢子とで、舌鼓をうってしまった。しかし、次に獲れた熊の肉は必ず送るから、しばらく辛抱してくれと、返電があった。

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