本文へ移動
TORENDIA

間木老人

本文約18,300字 ・ 読了時間 約37分

あらすじ(AIが作成しました)

重病の患者を収容する特殊な病院に入院した宇津は、院内で動物の番人という作業に就く。孤独と自身の病に対する苦悩を抱える宇津は、動物小屋で暮らす中で、ある夜、間木という老人と出会う。かつての捕虜生活や、娘の死という過酷な運命に翻弄されてきた老人は、人間を信じられぬ苦しい胸の内を宇津に語る。本作は、この特異な環境下で出会った二人の対話を通じ、死と運命に向き合う人々の姿を描く。

北條民雄

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 25

この病院に入院してから三ヶ月程過ぎたある日、宇津は、この病院が実験用に飼育してゐる動物達の番人になつてはくれまいかと頼まれた。病院とはいへ、千五百名に近い患者を収容し、彼等同志の結婚すら許されてゐるここは、完全に一つの特殊部落で、院内には土方もゐるし、女工もゐるし、若芽のやうな子供達も飛び廻つてゐて、その子供達のためには、学校さへも設けられてあつた。患者達も朽ち果てて行く自分の体を、毎日ぼんやり見て暮す苦しさから逃れたいためでもあらうが、作業には熱心で、軽症者は激しい労働をも続けてゐた。彼等の日常の小使銭は、いふまでもなくこの作業から生れてくるもので、夜が明けると彼等はそれぞれの部署へ出かけて行くのだった[#「だった」はママ]。かうした中にあつて、宇津はまだどの職業にも属してゐなかつたので、番人になつてくれといふ頼みを承知したのだつた。勿論これも作業の一つで、一日五銭が支給された。宇津は元来内向的な男で、それに入院間もないため、自分の病気にまだ十分に馴れ切ることが出来ず、何時でも深い苦悶の表情を浮べて、思ひ悩んでゐることが多かつた。その上凡てが共同生活で、十二畳半といふ広い部屋に、六名づつが思ひ思ひの生活をする雑然さには、実際閉口してゐたのだつた。さういふ彼にとつて、動物の番人はこの上ない適役であり、一つの部屋が与へられるといふことが、彼にとつて大変好都合だつたのである。

北條民雄の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本