TRENDIA CLASSIC
孤独のことなど
北條民雄
1 / 2
――美しいものは一番危つかしい。一番こはれやすい。その上一番終末的でさへあります。だから美しいゆゑに切ないものは、一番毅然とせねばならない。一歩どちらかへぐらつけばそれは忽ち甘くなるか、又は感傷になる――これは保田與重郎氏が川端康成氏の芸術を評した時の言葉であるが、私はこの一文を読んだ時、ああと溜息をつき、このやうに美しいものがこの世の世界にあるのかと、頭をあげ瞳を輝かせたのであつた。けれど、それは私の世界から遠く、夢を隔てた彼方であつた。
昨夜も友人の一人は私を評して冷たいと云ひ、もう一人は、皮肉に君の眼は冷たく光つてゐると云つた。この二人の友の言葉を、私はどうして否定出来よう。事実私はどんな親しい友と語る時でも、不幸に打ちくだかれた可憐な少女を見る時でも、決して相手と感じを共にし、嬉しさや悲しみを共に味ふなどいふことはまるで出来ず、ひたすら己の理智の鏡を曇らせまいと努力し、私かに観察の矛を鋭く砥ぐ以外に何も知らぬ、これは、幼い頃に母を失ひ、愛情の優しいあたたかみを知らぬ私の、性情の奥深く潜んでゐる冷たい心の故であらうけれど、一面又私の触れる世界の雑駁さが映るためであると云つたとて、私は決して自分をやましいと思ひはせぬ。私の冷たさは現実の冷たさであると云へば、詭弁を弄すると人は云はう。けれど私の心の中を去来する激しい孤独を理解されたなら、私の心の奥底にも、愛情の柔かみを憧れ、美しいものを求めてやまぬ苦悩にも頷いてくれよう。
北條民雄の他の作品
TRENDIA CLASSIC
白痴
北條民雄
白痴
北條民雄 ・ 約4分
TRENDIA CLASSIC
青い焔
北條民雄
青い焔
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
朝
北條民雄
朝
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
井の中の正月の
感想
北條民雄
井の中の正月の感想
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
盂蘭盆
北條民雄
盂蘭盆
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
大阪の一夜
北條民雄
大阪の一夜
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
いのちの初夜
北條民雄
いのちの初夜
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
覚え書
北條民雄
覚え書
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
書けない原稿
北條民雄
書けない原稿
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
邂逅
北條民雄
邂逅
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
可愛いポール
北條民雄
可愛いポール
北條民雄
TRENDIA CLASSIC
戯画
北條民雄
戯画
北條民雄