TRENDIA CLASSIC

無題※[#ローマ数字2、1-13-22]

北條民雄

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この部屋には東と北とに窓がある。しかしそれはずつと天上に近い上の方にあるので、太陽の光線は朝の間にほんのちよつと流れ込んで来るだけで、あとは一日中陰気な、物淋しい、薄暗い部屋だ。おまけにこの部屋は動物小屋の内部にあつて、すぐ壁一つ向うの土間続きには、猿や、モルモットや、家兎や、山羊や、二十日鼠などが、朝から晩まで箱の中で、泣いたり喚いたりごとごとと箱の板にぶつかつたりして騒いでゐる。だから部屋の中はそいつらの糞の臭ひがいつぱい沈澱してゐて、慣れないうちは息がつまりさうなほどだ。私はこんな部屋の中で、もう二年も前から、じつと坐り続けてゐる。

部屋の中には、書物や、湯呑や、紙くづや、その他一切のがらくた物がいつぱい散らかつてゐるので、まるで掃溜のやうなものだ。空気は何時でもじめじめして、なんだか顔や手にねばりついて来るやうな感じがする。この間も、知合ひの医者がやつて来て、(彼は自分が試験中の猿を診に来たのだ)こんな不潔な部屋にゐては肺病になつてしまふから、もう動物どもの番人はやめろと注意してくれたほどである。しかし私は、もうどんなことがあつたつて、この部屋からは出ないつもりだ。私はこの部屋が、近頃ではなんとなく気に入つてゐるのだ。それに、肺病くらゐがなんだらう。口から血でも吐いたら、かへつて楽しみが増すくらゐのものではないか。実際、私のやうな、陰気な、孤独な人間に、これ以上ぴつたりした部屋がどこにあるだらうか? 世界中を金の草鞋で探しても、多分ありはしないであらう。おまけに癩病院の中だから尚更のことではないか。

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