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TORENDIA

声と人柄

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

逗子駅から東京へ向かう列車で、青年団の親切により席を譲られた体験を綴る。視覚に頼らず暮らす著者が、声の響きや言葉つきから相手の心情や人柄を鋭く察知する様子を描く。尺八の合奏や乗り物での経験を通じ、人の心の持ちようが声色にまで如実に反映されるという持論を展開し、前向きな精神の重要性を考察する随筆である。

宮城道雄

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🎧 声と人柄 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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或時、横須賀から東京に向う省線に逗子駅から乗ったことがあった。ところがその電車が非常に混んでいて、空いた座席が殆どなかった。丁度その時、どこかの地方の青年団の人々が乗っていたが、その中の一人が、私の乗り込んだのを見てか「おい、起て起て」と言ったら、腰かけていた人たちがみな起ちあがって、私たちに席を与えてくれた。

もしその場合に、私が目が見えていたら辞退するのであるが、私は盲人なので折角の親切を無にしては悪いと思ったので、腰かけさせてもらった。

私は初めその青年団の人たちが、つい近くへでも行くのかと思っていたら、やはり私たちと同様に東京へ行くらしいのである。そして、独り言のように「なあに、我々は起っていたっていいのだ」と言っていた。それからまた、自分たちが起っている苦痛をまぎらわすためか、元気よくお互に話し合っていた。そうかと思うと、何か手をまるめて、喇叭の真似を始めだした。

そして、色々の節を吹いていたが、それがなかなか上手にやっていた。一節吹いては興じ合って、みんなが元気に笑っていた。私はそれを面白く感じた。

私は人の言葉つきで、その人が今日自分に、どういう用向きで来たかということが、あらかじめわかる。

その人がどういう態度をしているかということも、自然に感じられるのである。

ある夏の暑い時であったが、或る人が尺八を合せに、私のところに来たことがある。その人とは心易い間柄だったし、丁度その時は誰も居合わせなかったので、その人が上著を脱ぎ、はだかになって尺八を吹き出した。私はそれを感じていたけれども黙って合奏をしたのであった。そしていよいよ済んだあとで、私が今日のような暑い日には、はだかでやると大変涼しいでしょうなあ、と言ったらその人は驚いて、這う這うの体で帰ってしまった。その人は別に私を誤魔化そうと思ってやったのではなく、心易さからのことだったろうが、私の言ったことが当たったのであった。

とりわけ、声で、一番私の感ずることは、バスや円タクに乗った場合である。

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