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TORENDIA

靄の彼方

本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

創作活動に追われる日々の葛藤や、自身の画風について綴る随筆。過去の風俗画を好む理由を、時代が醸し出す美しい靄という表現を用いて説く。現代のありのままを写実する風潮に抗い、古典的な空気感を取り入れた独自の現代風俗画を描くという将来の展望を語り、個性を重んじる作家としての心構えを示す。

上村松園

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🎧 靄の彼方 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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心忙しい気もちから脱れて、ゆっくり制作もし、また研究もしたいと年中そればかりを考えていながら、やはり心忙しく過ごしています。そんならそれで、その心忙しい程度に何か出来るかと申しますと、一向何もかもハカどらないのには、自分ながら愛想がつきます。世間の作家たちのことは、あまり知らない私のことですから、どんなものかわかりませんが、私としては、年から年中、あれも描かんならん、これもこうと考えに追い廻されていながら、その割に筆の方は一向ラチの明かないのには、歯痒くて堪りません。

唯今は、またぞろ、ある宮家に納まるべきものに筆を着けています。これも疾くに完成しておるべきはずのものですが、未だに延びのびになっています。

○

作家が、年中作品の制作に没頭していると申すことは、その作家にとって仕合せのようでもあって、実は苦しみでもあります。描くべきものをすっくり描き上げてしまい、これで何もかもさっぱりという爽やかな軽い気分に一どなって、さて、改めて研究なり、自分の好きな方へなり、一念を入れてみたら、こんな幸福なことはなかろうと思うのですが、仕事がゆるしてくれません。しかし物は考えようで、制作すべきものが、きれいに一段落ついてこれでオシマイとなったら、何やら心淋しく、また制作が恋しくなるのかも知れません。人の心は得手勝手、まアこんな状態で悩まされてゆくのが、すなわち人生の好方便なのでしょう。

○

私は、私の好みからして、今までのような古い婦人風俗画を描いてきましたが、世間では、私があまりに古い風俗や心持に支配され過ぎているかのように、いう人もあるでしょう。私は古い方を振り返ってみることが、特に好きだというわけではありませんですが、そうすることが、表現に深みがあると思うからです。今、今のことは誰でも見て知っています。今を今のままに描くということは、画としての深みに於て、どうかと思われるような気持ちがします。

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