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TORENDIA

惑ひ

本文約5,900字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

ある日、町子は愛している男の本箱から、他の女への手紙を見つけ出し、激しい嫉妬と不安に駆られる。かつて学校で英語教師として慕っていたその男と、親しい仲であった女との関係を疑い、町子の心は乱れる。かつて二人が親密にしていた様子を思い出し、男の愛は偽りだったのではないかという絶望と、その女に対する苛立ちが交錯する。自身の苦悶と対峙しながら、町子は男の態度に疑念を抱き、複雑な心境の中で二人の関係の行方を見つめていく。

伊藤野枝

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🎧 惑ひ / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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その手紙を町子が男の本箱の抽斗に見出した時に、彼女は全身の血がみんな逆上することを感じながらドキ/\する胸をおさへた。『あの女だ、あの女だ。』息をはづませながら彼女はそふ思つた。そして異常な興奮をもつてその表書を一寸の間みつめてゐた。やがてすぐに非常な勢をもつて憎悪と嫉妬がこみ上げて来るのを感じた。彼女はもうそれを押へることが出来なかつた。直ぐに裂いて捨てたいほどに思つた。忌々しい見まい/\と思ふ半面にはどんな態度で男があの女に書いてゐるか矢つ張りどうしても見ないではゐられない様にも思つた。併し現在自分が愛してゐる男、自分ひとりのものだと思つてゐる男が他の女に愛を表す語をつらねた其の手紙を見るのは何となく不安でそして恐ろしいやうな苦しいやうな気がして、見まい/\とした。けれどもどうしても見ないではゐられなかつた。

読んで行くうちにも彼女は色々な気持ちにさせられた。たつた一本の手紙だが、そしてそれを読み終るまでに十分とは懸らない僅かの間に彼女の心臓は痛ましい迄に虐待された。嫉妬、不安、憤怒、憎悪、あらゆる感情が露はに、あらしのやうな勢をもつて町子の身内を荒れまはつた。そしてそのうちにも自分に対するとはまるで違つた男の半面をまざ/\と見せつけられた。其処に対した、愚劣な、無智な女と、男を見た。狂奔する感情を制止する落付きをどうしても見出すことは出来なかつた。今はたゞ彼女はその感情の中に浸つて声をあげて、身をもだえて泣くより仕方がなかつた。彼女はまるで男が全く彼女から離れたやうに思ひ、そして男の持つた違つた世界を見た彼女はとりつく島もないやうな絶望の淵に沈んで行つた。

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