TRENDIA CLASSIC
着物雑考
林芙美子
1 / 5
袷から単衣に変るセルの代用に、私の娘の頃には、ところどころ赤のはいった紺絣を着せられたものですが、あれはなかなかいいものだと思います。色の白いひとにも、色の黒いひとにも紺の絣と云うものはなかなかよく似合ったもので、五月頃の青葉になると、早く絣を着せてくれと私はよく母親へせがんだものでした。洗えば洗うほど紺地と白い絣がぱっと鮮かになって、それだけ青葉の季節を感じます。
昔、下谷の下宿にいました頃、下宿のお上さんが、「あのひとは染のいい絣を着ていたからいい家の息子に違いない」なぞと、部屋を見に来る学生のなりふりを見てこう云っておりましたが、なるほど面白いなと思いました。
一口に紺絣と云っても染のいいのはなかなか高価でしたが、その頃は仕事も現在のようにラフでないせいか、たいして高価でない絣でも、随分洗いが利いて丈夫だったものです。――私は、どうもセルを好きません。何だか小柄でむくむくしていますせいか、セルを着るかわりに、袷から単衣にすぐ変りますが、いまでもセルがわりに紺絣を着ております。セルでも、昔は柔かい薄地のカシミヤと云うのがありましたが、あれは着心地がよかったものです。でも、カシミヤは大変高価だったので、清貧楽愁の私の家では、私に紺絣ばかりを着せてくれました。
男のひとでも、この頃は段々洋服がふえましたせいか、染のいい絣を着ているひとを見なくなりましたが、日本の青年には紺絣は一つの青春美だとさえ思います。私たち娘の頃、紺絣を着た青年はあこがれの的であった位です。これ位、また、青年によく似合う着物は他にないのですから、絣屋さんの宣伝をするわけではありませんが、もっと紺絣を着て貰いたいものだと思います。洗いざらした紺絣は人間をりりしくみせます。
林芙美子の他の作品
TRENDIA CLASSIC
愛情
林芙美子
愛情
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
愛する人達
林芙美子
愛する人達
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
蒼馬を見たり
林芙美子
蒼馬を見たり
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
朝御飯
林芙美子
朝御飯
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
あひびき
林芙美子
あひびき
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
或る女
林芙美子
或る女
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
朝夕
林芙美子
朝夕
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
雨
林芙美子
雨
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
絵本
林芙美子
絵本
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
美しい犬
林芙美子
美しい犬
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
田舎がえり
林芙美子
田舎がえり
林芙美子
TRENDIA CLASSIC
うき草
林芙美子
うき草
林芙美子