あかんぼの首
本文約8,300字 ・ 読了時間 約17分
あらすじ(AIが作成しました)
体調不良に悩む京子は、夢の中で訪れた異様な家や赤ん坊の光景に強く引き寄せられる。その後、夫と共に訪れた海岸で夢の光景と瓜二つの家を見つけ、そこが以前に赤ん坊をめぐる恐ろしい事件が起きた場所だと知る。現実と夢の境界が曖昧になる中で、京子と夫の周囲には不可解な現象が重なり、やがて平穏な日常が恐怖へと変貌していく様子を描く物語である。
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一
赤インキの滲んだやうな暑い陽の光があつた。陽の光は谷の下の人家の塀越しに見える若葉を照らしてゐた。若葉の中には塩竈桜か何かであらう、散り残りの白いあざれたやうな花弁があつて、それが青味だつて吹いて来る風に胡蝶のやうにちらちらと散つた。花弁は崖の上の蕗の葉の上にも落ちた。
電車の乗換場の土雨はぬる湯で拭いた顔や襟にまだ滲んでゐるやうな気がした。電車の交叉点の一方は赤煉瓦塀の高い工場になつてゐた。塀に沿うて街路樹の鈴懸の若葉があつた。若葉の枝は狂人のやうに風のために踊つてゐた。黄色に見える土雨はその四辺に佗しい色彩を施してゐた。京子は正午前に行つて来た病院の往きかへりの路のことを浮べてゐた。
京子は重い頭を左枕にして寝てゐた。薄青い電燈の光が掻巻にくるまつた彼女の姿をげんなりと照してゐた。床の中は生暖かで、ほこりのある体をぢつと一所に置いてゐると、その個所が熱ざして来るやうな気持になつた。彼は足や手の先を冷たい所へ所へとやつた。冷たい所へとやつた刹那の感触は心好い嬉しいものであつた。彼はふと夕飯の時に夫の唇から洩れた同情のある言葉を思ひ出した。
「来月の十日頃が来たなら、学校の方も休みになるから、海岸の方へ伴れて行つてやらう、一ヶ月位も呑気にしてをれば癒るだらう、」