TRENDIA CLASSIC
千川の桜
大町桂月
1 / 2
小金井の山櫻の區域盡きて、境橋架れる處より、玉川上水分派し、練馬驛、東長崎驛を經て、板橋に入る。これを千川上水と稱す。大正四年、この上水べりに櫻と楓との若木を植ゑ付けたりと聞く。さても花の名所の増加すること哉。
大正五年四月十日、風強し。花の都變じて塵の都となる。庭の樹空に舞ひ、障子がた/\動きて止まず。裸男生來風が大嫌ひ也。このやうに風の吹く日は、頭をかきむしらるゝ心地して、筆とること能はず。布團被つて寢むか、消極的也。むしろ積極的に家を出でて、風と鬪はむ哉。
池袋より電車に乘りて、板橋驛に下る。この驛を過ぐる者、試みに東方を見よ。數十間の彼方に、高き石塔あらむ。これ幕末の際、新選組の二頭領なりし近藤勇と土方歳三との墓也。二人ともに多摩川畔の農家に生れたるが、起つて劍を執つて幕府に盡し、勇は捕へられて、此の地に殺され、歳三は函館に討死せり。順逆誤れりと雖も、亦一代の壯士也。
停車場を出でて數十間行けば、一小溝路を横切る。これ千川上水也。上水の右岸に沿ひ、上水のまゝに中仙道と別れて川越街道を行き、やがて川越街道とも別れ、上水に沿うて行くこと數町、上水の兩側に若き竝木を見る。その三分の二は櫻、三分の一は楓也。凡そ十町にして、五郎窪橋に至る。日暮れかゝりければ、目白驛さして歸途に就く。風は依然して強し。直立しては歩し難し。風に向つて上體を屈して歩くに、餘程力を入れざれば、吹倒されむとす。斯く歩くにも困難なる強風なるに、この日、青山原頭、鳥人スミス氏は飛行機の宙返りを爲したりと聞く。又風力は三十二米突にて、スミス氏は世界の飛行のレコードを破れりと聞く。嗚呼壯んなる哉。
大町桂月の他の作品
TRENDIA CLASSIC
一万尺の山嶽
大町桂月
一万尺の山嶽
大町桂月 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
赤城山
大町桂月
赤城山
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
秋の筑波山
大町桂月
秋の筑波山
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
足柄の山水
大町桂月
足柄の山水
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
飛鳥山遠足
大町桂月
飛鳥山遠足
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
吾嬬の森
大町桂月
吾嬬の森
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
石田堤
大町桂月
石田堤
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
沖の小島
大町桂月
沖の小島
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
碓氷峠
大町桂月
碓氷峠
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
梅の吉野村
大町桂月
梅の吉野村
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
阿武隈川水源の
仙境
大町桂月
阿武隈川水源の仙境
大町桂月
TRENDIA CLASSIC
親子遠足の感
大町桂月
親子遠足の感
大町桂月