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TORENDIA

少年の食物

本文約5,200字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

明治から大正期にかけて東京で育った著者が、幼少期から少年時代に親しんだ絵画、玩具、書籍、雑誌を振り返る回想録。家庭内の書画や舶来の石版画、叔父や兄の友人の影響を受けた創作活動、さらには当時の娯楽雑誌や挿絵に対する熱心な関心を綴る。自身の美術的嗜好の形成過程と、家族や友人との交流を通じた成長の記憶を詳細に記録し、明治時代の都市生活者の少年がどのようにして文化や創作と向き合っていたかを描く。

木村荘八

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🎧 少年の食物 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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私は初めて絵を見たのは何が最初か、一寸おぼえていません。多分好んで見たのはポンチ絵だったろうと思います。窓から乞食が麦わらで室内の人の飲みものを飲む絵だとか、団十郎が尻に帆をかけて大阪へ行く? 絵などおぼえています。先是、私の家の二階の広間には大きな墨絵の龍を描いた額(三間幅位のもの)がありましたが、好きではありませんでした。私の室には何にも額はありませんでしたが、兄キの室へ行くと、そこのはいってふり向いた上の壁のところには――あれはどう云う性質のものだったろう? 何しろ石版画には相違ない。或いは、当時の市会議員の像かも知れぬ? そう云う、沢山に人のいる、それが各々小判形の中に、ベタ一面人のいる額がかかっていました。紙が黄ろくくすんでいたことと、星亨がいたこと、その顔は今もおぼえています。中に私の父もいるのでそれでヘンに好意を持っていた額です。――之等が私にとって最初の、座右の絵です。

それから同じ室の床の間に、大字で「来者不拒、去者不追」と二行に書き下ろした草書の大幅がかかっていました。右の行の不がふと書いてあって左の行の初めの去が、この土のところの十が大変太く、大きく書いてあった。――恐らく私は此の幅を十八年間眺めたものかも知れません。今思えば年中かけっぱなしで、おかしなものだが、何しろ必ず此の幅は兄キの室の床の間にあって、あの床の間にはあれがあるものと思っていました。尤も時々何だか薄い絵だとか、歴代天皇の御像だとか、正月には七福神とか、僕の五月には鍾馗、妹の三月には雛などとかけ代ったことはある。然し一時のことで、直ぐ又ドカンとした来者不拒……に代ります。又来者不拒が一番ぴったりとした、と云うより気に入った、これが出ていると気のすむような、いつものかけじでした。

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