銀座の柳
本文約620字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
昭和二十一年頃の東京銀座を舞台に、戦災を経て一変した街の様子を綴る。かつての面影を求めて街を歩く著者は、夜店が昼店に変わり、露店商人が雨に追われる戦後特有の世相を目にする。大正震災以降、幾度もの変貌を遂げ、さらに新しい姿へと生まれ変わろうとする街並みの中で、雨の中に佇み新芽をつける柳の姿に昔と変わらぬ風景を見出す。都市の地形的回顧と変容を辿りながら、銀座の現在の移り変わりを静かに記録する。
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昔の面影を偲ぶやうな今の東京の材料をとの意向だが、存外はづれの「淀橋」といつたやうなところにその「昔の面影」があるやうである。しかし「昔」もこれはまた「大昔」であつて、戦災であたりが広漠となつたために、むかし武蔵野の野川であつた頃にはこの辺かくもあつたらうかと思はせる、早くいへば、地形的回顧を人に与へるものがある。
――それでは余り「昔」すぎるだらう。
七月一日(昭和廿一年頃)、とりあへず銀座へ出て見た。しかし銀座あたりの「昔」は、よしんば、その形骸が備はつてゐようとも、大正震災この方三変四変してゐるから、遠い回顧の跡は無い。まして今度の変で銀座はまた全然新規のものになつてしまふ様子だ。
昔は「銀座の夜店」といつたが、近頃ではその夜店が昼店に変つたやうである。店構への様子は前と同じであるが、却つて夜は早仕舞ひになるのは、当分これが戦災後の世相か。
昼頃までは晴れてゐた空が午後から雨模様になつてゐた折柄、一丁目から歩道を歩いてゐるうちに、雨足繁く、夕立になつて来た、露店商人が急に店の取片付けも成らず、テント張りのまゝぬれてゐる午下りの景色は、これまで見かけないものである。斜向うの電車道を越した通りを見ると、片屋根のスマートな、しかし見るからに植民地風な――店舗の飾窓の凹みに、三々五々人が雨宿りに駈込んで空の様子を見てゐる。柳がひよろひよろと雨の中に立つて新芽をつけてゐる。
結局柳だけが昔と変らない銀座風景だつたかもしれない。
完