グラッドロンがブリタニイを領していたアルモリカ人の王であった時、即ちアルヴォルの王であった時、彼の名にまさる名はなかった。ジュートやアングル族の住む北の海辺の砂丘から肌黒いバスクの漁師どもが網を投げてすなどりする南の方まで、グラッドロンの名は人を沈黙させた。アルヴォルは広い土地であった、そこの人たちはフランク人を狼と呼んでいた、そして狼のようにフランク人は狩り立てられていた。デュアルやユエルゴアの森にも又はコルナヴァイユの花崗岩のしんにも今日まで残っている狂暴な叫びごえの A'hr bleiz! A'hr bleiz! はその頃始終きこえていた、しかし狼よりも、やつれ果てたフランクの落人たちの方が、その声を余計に恐れていた。
アルヴォルの王グラッドロンが剣の渇きを静め得たのはもう中年に達した後であった、そのころ彼はアルモリカ人と同種族であるキムリイ人の地に行ってその人たちを助けてサクソンの遊牧民を討ち、血の潮が流れひくまで戦った。つぎに彼は遠い北国に行った、北のゲエルどももブリトンの矢鳴りの音をおそるるようになり、山国のピクト族は貢を納めた。そこから、彼はようやく帰って来た。故国に帰った時、もたらした分捕品のすべての中でことに大切な二つの宝があった、黒い軍馬とましろい皮膚の女と。女は藍いろの湖のような眼を持って、野の秦皮樹の赤銅いろの実のように赤い髪をながく房々と垂らして、クリームのように肌しろい女であった。馬の名はモルヴァアクといい、女の名はマルグヴェンといった。人々が「御しがたい者」と呼んだのはモルヴァアクのことであった、彼等はやがて女をマルグヴェンとは呼ばずに「女王」というようになった、グラッドロンは彼女をアルヴォルの女王としたので、水泡のようにしろい美しさのためには「白き女王」とも呼ばれ、赤い髪の毛が解きほどかれた時、白い岩の絶壁をながれ落ちる血しおの滝とも見えたから「赤き女王」とも呼ばれた。