TRENDIA CLASSIC

冬の榛名山

大町桂月

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大いに醉ひて、洋服着たるまゝにて、寢につきたるは夜の一時半、五時の出發には間もなけれど、少しでも睡らむと思へるなり。平生は宵つ張りの朝寢坊なるも、氣の張れる故にや、五時半に眼さめたり。眼ざまし時計を五時にかけ置きたるに、なぜ鳴らぬぞと、いぶかりて、よく見れば、鳴らぬもその筈や、五時にかけたるつもりなるも、大醉のあまりに、誤つて七時にかけたるなり。さるにても、三十分おくれたるのみにて、早く覺めたるこそ仕合せなりけれ。昨夜時間表を見て、五時五十四分新宿發の汽車あることを記憶す。それに乘らむとて、朝飯もくはず、起きたるまゝにて、飛び出でて新宿停車場にかけつけて、時計を見れば、五時五十分なり。

發車までにはまだ四分ありと喜ぶ間もなく、停車場の時間表を見れば、これも大醉の餘りの見そこなひにして、つい數字の上下を顛倒して、五時四十五分の發車を、誤つて五時五十四分の發車と思ひちがへたるにて、やれ/\、汽車は、正直に、時間通りに、五分前に出發したるなり。

次の汽車にのりて、田端に着し、前橋行の汽車に乘りかへむとするに、まだ三十分も待たざるべからず。仕方なしとあきらめて、ベンチに腰おろしけるが、渇を催して堪へがたきまゝに、停車場外に出づ。休息店多けれども、朝早ければ、いづこもまだ寢しづまりて、戸をあけさうにもなし。井戸をさがせど、見當らず。あゝ苦しや、醉醒めの水の味を知るものは、醉醒めに水を得ずして、人一倍の苦痛を感ずることもあるなり。

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