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TORENDIA

舞姫

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

リヨンのオペラ座で第一位の舞踏者として名を馳せるローザ・トリアニ。その美しさに魅了された語り手は、舞台上で繰り広げられる彼女の妖艶な舞踏を目の当たりにし、思慕の念を募らせる。楽屋の入り口で偶然出会った時の鮮やかな記憶を辿りながら、舞台の誘惑的な光の中で踊る彼女の肢体の美しさに圧倒され、激しい情熱と渇望を綴る。観客の一人として彼女を崇拝し、狂おしいほどに心奪われる一人の男性の情動を描き出す物語である。

永井荷風

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🎧 舞姫 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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お! ローザ、トリアニ。リヨンのオペラ座、第一の舞姫、ローザ、トリアニ。

われ始めて、番組の面に、第一位舞踏者なる位付けせし、君が名を読みし時、お、ローザ、トリアニ。われは暖き伊太利亜より来ませし姫かと疑ひぬ。君がふくやかなる長き面は、誰が目にも、まがうかたなきフランスの姫ならざりしか。舞台に出るフランスのかゝる技芸家は、好みて伊太利亜綴りの芸名を用ゆと覚ゆ。伊太利亜つゞりは、まこと、耳にさはやかなり。お、ローザ、トリアニ!

そも、われの始めて君を見まつりしは、其の年の秋、君が未だリヨン市設のオペラ座の舞台に出で給はざる前なりし。ローン河に横はる橋々の袂に、其の年の初演奏はワグナーのワルキール、次の夜にはグノーがフオーストとの予告は出でたり。われは初めて見るリヨンのオペラ、巴里の其れにくらべばや人より先きによき席を得んとて、本屋、小間物屋の店、勧工場の如く連りし劇場の柱太き廻廊を、札売る方に進み行きし時、われは初めて君を見まつりしなり。お、ローザ、トリアニ!

其の時、君は形余り大ならざる帽を後ざまに、いともはでなる弁慶縞なす薄色地の散歩着を着給ひぬ。夕暮の急ぐ人、狭き廻廊を押合ひ行く中に、君が衣服の縞柄の、如何にわが目を引きたりし。君は恋の絵葉書売る店先に、媼と立ちて語り給ふ。われは近く寄進みて、君が面を見まもりき。お、ローザ、トリアニ!

君が面は恐しきまで美しく、頬の紅、唇の紅にてかざられき。恐しきまで美しとは、かゝる化粧の技は、よく物事わきまへぬ妻、娘の、夢企て及ぶべき処ならねば。何とは云はん、われにして、若し若干の富を抛たしめば、今宵を待たず、君と共に一杯の美酒を傾け得べしと思ひぬ。妄想は忽ち、わが慾深き眼を、ひたすら、君が衣服につゝまれし形体のいみじさに移らしめぬ。肩より腰、かゝるいみじき肉の誇りは、飢に追はれ餌につかれし世の常の遊び女には見得べからず、幸ありしよ、われは。われは先取の権を得ばやと、狼の如く君が立去る後に従ひぬ。君が姿は廻廊を後に、暗く狭き楽屋の戸口に消えぬ。そこには大道具の書割をつみたる荷馬車ありき。お、ローザ、トリアニ!

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