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TORENDIA

河原の対面

本文約15,600字 ・ 読了時間 約32分

あらすじ(AIが作成しました)

投機に失敗し金貸業を営む為造は、冷酷な守銭奴と化す。ある日、負債者と揉み合ううちに土蔵へ逃げ込むが、やがて警吏により家宅捜索が行われ、為造は収監される。残された家族は父の変わり果てた姿に苦悩し、娘のお町は慕情と嫌悪の間で揺れ動く。その後、看守の計らいで河原などで対面を繰り返すが、お町は父と家庭に対する絶望を深め、いつかこの場所から離れることを心に誓う。

小寺菊子

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一

それは春とは云つても、まだ寒い頃であつた。北の海から冷々としたうら寂しい風が吹いて来て、空にはどことなく冬のやうな底重い雲が低く垂れ込めてゐた。庭の植込みを囲んであつた「雪除」がやつと取外されて、濃い緑色をした蘇鉄や棕櫚竹などが、初めて身軽になつたと[#「なつたと」は底本では「なったと」]いふ風に、おづ/\と枝を張り幹を伸して、快げに自分々々の身を持返した。さうして、時をり降りそゝぐ小雨が、しと/\と湿つぽい温気をもたらしてくると、ふと庭の隅々から小さな草の芽生を見出すことが出来た。それでも北国の春はやつぱり寒いのであつた。どんよりとした鉛色の重い雲にとざゝれた陰鬱な日が、幾日も/\打ちつゞいた。

ある日――その日も朝から空が灰汁をまいたやうに薄暗くわびしげに曇つてゐた。その午後であつた。街から二里ばかり離れた村に住んでゐる源右衛門といふ男がお町の家を訪ねて来て、お町の父の為造と奥の座敷でひそ/\と何か話をしてゐた。二人の話が何となく家の人だちに或不安を与へた。為造にその頃さういふ風な内密らしいことが度々あつた。家の人だちはさういふ場合に接するのを、いつとなく虞れるやうになつてゐたのである。

為造はこの一二年前に、ある投機的な仕事に手を出して大きな失敗をした。さうして、一時殆ど失神したやうになつて倒れてゐた彼は、ふと思ひついて金貸業をはじめたのであつた。彼は自分の莫大な損失に対する償ひを、貪欲と無慈悲との結果から産み出さうと決心した。彼は世間のあらゆる人々に対して、もはや全く血も涙も持たない、一個の守銭奴と化し去つたのである。

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