ある町にジヤガイモ・ホテルといふ宿屋がありました。主人といふのが、ジヤガイモだつたからです。
主人のジヤガイモさんは大変親切な人だつたので、このホテルにはお客様がいつも多すぎて、どうかすると、一晩に、二人や三人のお客様をことわらなければならぬこともありました。
ある夕方、もう、この上一人のお客様も泊めることが出来ない程、満員になりましたので、「満員になりましたから、お気の毒でも、今晩は、どなたもお泊め出来ません。」といふ大きな満員札をジヤガイモさんは、ホテルの入口にかけようとしました。すると、そこへ、立派な玉ねぎの紳士がやつて来て、ジヤガイモさんに言ひました。
「どうか、ジヤガイモさん、私を泊めて下さい。大変つかれてゐますから。」
ジヤガイモさんは、気の毒に思ひましたけれども、空いてゐる部屋がないので、
「お気の毒ですけれども、何分、もう満員になつてしまひましたから。」とことわりました。
けれども、玉ねぎさんは、朝から遠い道を歩きつゞけて、くたくたにつかれてゐるので、この上歩くことが出来ません。
「馬小屋でも、屋根裏でも、どこでもいゝから、どうぞ泊めて下さい。」とたのみました。
そこで、ジヤガイモさんは考へました。犬さんや、お猫さんならいざ知らず、玉ねぎさんを馬小屋になんぞ泊めたら、いやしんぼの馬が、玉ねぎさんを食べてしまふだらう。屋根裏に泊めたら、遠慮なしのくもが巣をかけるだらう。ジヤガイモさんは大変困りましたが、地下室のことを思ひ出して、
「では、地下室でも、よろしければお泊めします。」と申しました。
玉ねぎさんは大変よろこんで、泊めてもらふことにしました。そして、ジヤガイモさんに案内してもらつて、地下室に行きました。
そこは、真くらで、何にも見ることが出来ませんでしたので、玉ねぎさんは手さぐりで、小さいベツドを見付けて、そこへ横になるなり、ぐつすり寝込んでしまひました。