空中征服
本文約105,700字 ・ 読了時間 約212分
あらすじ(AIが作成しました)
ある夜、貧民窟でコーヒーを飲み過ぎて眠れぬ苦しみを味わう賀川豊彦は、突如自らを大阪市長に推挙し、大阪の空中征服を夢想する。煤煙で覆われた都市の不健康な状況を憂い、煤煙防止を第一の公約に掲げる就任演説を行うが、目覚めてみるとそれは全て夢であった。現実の過酷な生活環境と夢の中での市長としての抱負が交錯する中、物語は過酷な現実と理想の狭間で揺れる主人公の姿を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
――作者自画――
一 市長就任演説
「偉大なる大大阪の市民諸君、私はこのたびこの大大阪の市長として席を汚すことになりました。私はそれを光栄に思い、また不名誉にも思うております」
賀川豊彦が、大阪市長になったという号外が大阪百五十万の市民に配られたのは、三日前のことであった。それはまったく市民の予想外のことであり、資本家も、労働者も、官憲も、誰もそれを知らなかった。ただ一人賀川豊彦のみが知っていた。
賀川豊彦はコーヒーを呑み過ぎて、貧民窟の暑い夜、一晩寝られないで、苦しんだあげ句、自分自らを市長に推挙し、大阪の空中征服を思い立ったのである。それで、号外の出たのは彼一人が、大阪市中に配ったのであって、誰一人号外を配達したものもなかった。彼は夢の中に、大阪市長になって、床の中で一人演説しているのであった。
「――市民諸君、私が市長としてなすべき事業は実に多くあると思います。その第一は何を言うても、大阪の空中征服であると思います。今日のごとき空を持ち、あの煙突と、煤煙を持っていては、とても大阪市民は、この後五十年の健康を続けることは出来まいと思います。大阪精神の確立はまず、空中の煤煙防止から始むべきであろうと思います」
「私は決して境遇万能論者ではありません。しかし、性格万能論者も必ずしもすべての真理の把持者であるとは言えませぬ。水を離れて魚の生てゆく道がないごとく、空気を離れて人間の生てゆく道がないのであります。したがって大阪人が、大阪精神を創成せんとするならば、まず新鮮な空気を吸うことなしに、それは可能であり得ないのであります。今日空気を売買しているのは炭坑であります。そこは空気を坑中奥深く送らなければ坑夫はみな窒息してしまうのであります。
しかしわが大阪の空気は炭坑に比べて決してよいと言うことは出来ませぬ。大阪の空中の炭酸ガスの量は常に百分の五以上であり、その煤煙の量はまさに世界一であります。