一
「お姉さま、――」
小さい弟は何時の間にか川べりの石段の上に腰をかけ、目高をすくっている姉に声をかけた。
「お前、いつの間に来たの、こちらへ来ると危ないわよ、わたしすぐ足をふいて行くから。」
姉は慌てて今まで流れにひたしていた足をふいて、拭いていながらも自分と同じい顔をしている弟を見て、そして四辺に誰もいないのを見定めると、石の段々をあがった。道路から二段目のほかほかした日あたりに、足を鞦韆のように下げている弟のそばへ行き、そして肩の上に手を置いた。
「沢山捕れたの。」
「いいえ、ひとりだから駄目よ、二人だと手拭を両方から持って居れば沢山捕れるんだけれど……お前よく来られたわね。」
小さい弟は微笑っただけで別にそれについては返辞をしなかった。顔いろの悪いのはこの前会ったときと同じかった。
「みんなお達者、――」
「ええ、みんな………。」
姉は弟にならんで石段の上に腰を下ろした。石段に猫じゃらしの穂が一杯に伸び一番下の段に美しい水が機嫌よくながれていた。瀬すじの優しいところに列んだ目高が二人の話声が水面に落ちるころには、驚いて神経深く乱れた。ふたりは殆ど大人のように黙り合っていた。
「お前この前のときより瘠せたようだわね。肩なんかこんなにこつこつしているんだもの。」
「そうか知ら?」
「手だってほら細くなっている、――ふるえているのね。寒いの。」
「いや、寒くはないんだ。すこし暑いくらい、――」
「それならいいけれど……。」
弟はしばらく対岸の茫々たる崖の上をながめていたが、ふと、自分でも思いがけないような声音で言った。
「きょうお母さまに会ったよ、ご門のところでね、八百屋が来ていて何かを買っていらしった、僕、気のせいか知らんけれどお母さんも瘠せたように思う、お姉さま、そう思わない……。」
「そうね、すこしお瘠せになったのね、けれどもお父さまほどじゃない、お父さまときたらすっかり瘠せてしまったのよ、お気の毒よ。」
姉は弟に遠慮するような声で言った。「お母さまに何か言ったの。」