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TORENDIA

不思議な魚

本文約4,700字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

秋の暮れ、漁師の子息李一は町で見かけた人魚を買い求め、海へ逃がす。その後、鰯漁で困窮していた李一の父の網に、隣村へ流れそうになった鰯の大群が押し寄せ、大漁となる。網には李一が逃がした人魚の姿があり、李一はそれがかつての恩を返してくれたのだと悟る。本作は、不思議な魚との出会いと交流を軸に、厳しい自然の中で生きる親子と恩に報いる魚の情愛を描く物語である。

室生犀星

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🎧 不思議な魚 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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漁師の子息の李一は、ある秋の日の暮れに町のある都へ書物を買いに出掛けました。李一は作文と数学の本を包んで本屋を出たのは、日の暮れでもまだ明るい内だったのです。

その時、反対の町から魚やの盤台のような板の上に、四角なガラス瓶を置いて、しきりに何か唄いながら行く男を見たのです。その男のあとを町の子供らがぞろぞろ尾いて歩いていました。

「一たい、ガラスの箱の中に何が這入っているのだろう。」

李一は人込みの中から覗いてみると、美しい白魚のような形をした、それでいて、瞳もあり、足や手のある美しい人間のような魚であったので、なお、ふしぎそうに眺め込んでいました。わけても、その眼はきらきらとした美しい黒い色をしているのです。

男はこう言ってガラスの箱をゆすぶって見せるのでした。

「この魚は夜になると啼くのです。あなたがたはこれが夜になると、みな水の上へ出ていろいろな唄をうたうことをお考えなすったら、どうか二つずつお求めください。銀貨一粒です。」

男は箱の中へ手を入れて、水を掻きまぜると、白い美しい魚らは悲しそうに水の間によろよろとよろけるのです。それがいかにも可哀想に嫋やかに見えるのです。

見物人のひとりは、

「これが十銭かい――」

というのがいました。

「ええ十銭です。この通り美しいさかなです。これは支那では人魚ともいうそうです。ごらんなさい、この悧巧そうな眼付を見てやって下さい。」

男はそういうと、その一疋をつまんで、手の平の上に乗せて見物人に見せて廻ると、その間じゅう白い魚は悲しそうに男の手の平の上で苦しそうに悶えていました。漁師の子息の李一は何となく憫れになり、そっと自分の財布の中をのぞくと、本の買った残りが二十銭残っていたので、それで買おうと思ったのでした。しかしよく考えるとその金で網をつくろう麻糸を買わなければならぬので、思い返して買うのを止めたのです。何故かといえば、明日の朝の早くに網を船に積んで沖の漁に出なければならなかったからでした。網は今夜のうちに繕わねばならぬのでした。父は出しなにも、

「麻糸を買うのを忘れてくれるな、明日は漁に出るのだ。」

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