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TORENDIA

蜜のあわれ

本文約76,800字 ・ 読了時間 約154分

あらすじ(AIが作成しました)

おじさまと暮らす金魚の赤子は、雑誌に掲載された自身の絵の画料を巡って彼に支払いをねだる。彼女は金魚の友だちや餌を買うと主張し、日常の会話を通じて二人は不思議な交流を深めていく。金魚の骨という人間には未知の存在や、背骨に対するおじさまの畏怖と好奇心を背景に、少女のような振る舞いを見せる赤子との独特な対話を描く物語である。

室生犀星

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一、あたいは殺されない

「おじさま、お早うございます。」

「あ、お早う、好いご機嫌らしいね。」

「こんなよいお天気なのに、誰だって機嫌好くしていなきゃ悪いわ、おじさまも、さばさばしたお顔でいらっしゃる。」

「こんなに朝早くやって来て、またおねだりかね。どうも、あやしいな。」

「ううん、いや、ちがう。」

「じゃ何だ。言ってご覧。」

「あのね、このあいだね。あの、」

「うん。」

「このあいだね、小説の雑誌巻頭にあたいの絵をおかきになったでしょう。」

「あ、画いたよ、一疋いる金魚の絵をかいた。それがどうしたの。」

「あれね、とてもお上手だったわ、眼なんかぴちぴちしていて、とてもね。本物にそっくりだったわ。」

「頼まれて生れてはじめて絵というものを画いて見たんだよ。本当は絵だか何だか判らないがね。」

「あたいにも、そのうち一枚画いていただきたいわ。」

「絵は画こうとしたって却々、画けるものではないよ。君から見ると似ているかどうかね。」

「よく似ていたわ、それでね、あれから後に、一週間程してから、雑誌社からお礼のお金が書留で着いたでしょう。」

「これも生れてはじめて画料というものを貰ったのだが、それがどうかしたかね。」

「どれだけいただきになったの。」

「文章が一枚半ついていてね、合わせて一万円貰った。」

「おじさまはそれをわたくしにね、正直に仰有らなかったわね。幾ら来たってこともね。」

「金魚にお金の話をしたって、どうにもならないじゃないの。」

「だって、あれ、ほんとうは、あたいのお金じゃないこと、あたいをお画きになったんだもん、あたいにくださるとばかり、そうおもっていたわ。」

「何だか僕もそんな気がしないでも、なかったんだけど、」

「でね、おじさま、それについてね。」

「あ、」

「もうお金、だいぶ、おつかいになった?」

「半分つかったけれど、まだある。」

「何に半分、おつかいになったの。」

「千五百円の玉露を百目買ったし、雉子羽根のはたきを一本と、赤玉チーズを一個買った、……」

「あたいには、とうとう、何も買ってくださらなかったわね。」

「君なんかのことは、まるで、わすれていた。」

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