TORENDIA
南の海へ行きま
す
萩原朔太郎
TORENDIA
南の海へ行きます
本文約530字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
長い病床から解放された詩人は、都へ帰る客を見送ったのちの孤独な心情を綴る。春の兆しが見え始めた利根川のほとりで、故郷の風景に寂しさを募らせる中、馴染んだ日常や友人に別れを告げることを決意する。病の巣から離れ、つばきが咲く未知の南の海を目指して旅立つ決意と、新生活への期待が入り混じる心境を描く。
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🎧 南の海へ行きます / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星
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ながい疾患のいたみも消えさり、
淺間の山の雪も消え、
みんなお客さまたちは都におかへり、
酒はせんすゐにふきあげ、
ちらちら緋鯉もおよぎそめしが、
私はひとりぽつちとなり、
なにか知らねど泣きたくなり、
せんちめんたるの夕ぐれとなり、
しくしくとものをおもへば、
仲よしの友だちうちつれきたり、
卵のごときもの、
菓子のごときもの、
林檎のごときものを捧げてまくらべにもたらせり、
ああ、けれども私はさびしく、
いまはひとりで旅に行く行く、
ながい病氣の巣からはなれて、
つばきの花咲く南の島へと行かねばならぬ、
つばめのやうに快活に、
とんでゆく、とんでゆく。
けふ利根川のほとりに來てみれば、
しだいに春のめぐみを感じ、
雪わり草のふくめるやうに、
つちはうららにもえあがり、
西も東も雪とけながれ、
めんめんとして山峽にながれ、
光り光れる山頂さへ、
ひろごる桑の畑さへ、
さびしい病人の涙をさそふよ、
しみじみとおもへば、
故郷の冬空はれ、寂しくて寂しくてたへざれば、
いまはいつさいのものと別れをつげ、
あしたはれいの背廣を着、
いつもの輕い靴をはき、
まだ見も知らぬ南の海へあそばうよ、
その心もちも快活に、
みなさんたちに別れをつげ、
きさらぎなかばのかしまだち、
小鳥ぴよぴよと空に鳴きつれ。
――二月一日――
完
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