TRENDIA CLASSIC
室生犀星に與ふ
萩原朔太郎
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室生君!
君との友情を考へる時、僕は暗然たる涙を感ずる。だがそれは感傷でなく、もつと深い意味のものが、底から湧いてくるやうに思はれる。いかにしても、僕にはその意味が語りつくせない。だが力の及ぶだけ、貧しい表現をつくしてみよう。
室生君!
いかに過去に於て、僕が君の詩に魅惑されたか。君の「抒情小曲集」にある斷章や「ふるさと」の詩を、始めて北原白秋氏の雜誌で見た時に、僕は生來かつて知らない詩の幸福を味つた。町を行くときも、野に行くときも、僕は常に君の詩をふところにし、そして絶えず口吟み朗吟してゐた。僕はすつかり、君の小曲を諳誦してしまつた。その頃、丁度同じ北原氏の雜誌に僕も詩を書いてゐた。だが僕は、君によつてすつかり征服され、到頭競爭の念を捨ててしまつた。僕は君の弟子になり、改めて始めから詩を學ばうと決心した。僕は或る日、まだ見ぬ君に對する敬愛と思慕の念に耐へかねて、長い戀文のやうな手紙をかいた。その手紙では、僕は弟子としての禮儀をつくした。僕は君の靴の紐を解くだに足りないもの、數ならぬ砂利の一つだと書いた。それほど君の藝術が、魔力のやうに僕を魅惑してしまつたのだ。
翌年の春になつて、雪の深い北國の金澤から、君は土筆のやうに旅に出て來た。我々は始めて逢つた。そして櫻の莟が脹んでゐる前橋公園の堤防を、二人は寒さうに竝んで歩いた。君は田舍の野暮つたい文學書生のやうに、髮の毛を垢じみて長くはやし、ステツキをついて肩を四角に怒らせてゐた。單に風采ばかりでなく、君の言行の一切が田舍臭く、野卑の限りをつくしてゐた。どこか君の言行の影に、田舍新聞の印刷インキの臭ひがした。君は絶えず言つた。
「我々は大家です。」
「君の所に記者が來ますか。僕は××新聞の訪問記者に對して、詩に關する談話をしてやつたです。」
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