本文へ移動
TORENDIA

室生犀星に與ふ

本文約11,900字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

詩人・室生犀星との友情を回顧し、その人物像と自らの精神的葛藤を綴る。著者は、かつて詩に魅せられて犀星を敬愛した過去を振り返り、実際に面会した際の第一印象である粗野な外見への落胆や、後に知ったその内面の魅力について明かす。現在、両者は互いの文学観や生活信条の相違により、思想上は対立し理解し合えない孤独な敵同士という立場にあることを率直に告白し、友情の変遷と個々の孤立した精神状況を論じる。

萩原朔太郎

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 15

室生君!

君との友情を考へる時、僕は暗然たる涙を感ずる。だがそれは感傷でなく、もつと深い意味のものが、底から湧いてくるやうに思はれる。いかにしても、僕にはその意味が語りつくせない。だが力の及ぶだけ、貧しい表現をつくしてみよう。

室生君!

いかに過去に於て、僕が君の詩に魅惑されたか。君の「抒情小曲集」にある斷章や「ふるさと」の詩を、始めて北原白秋氏の雜誌で見た時に、僕は生來かつて知らない詩の幸福を味つた。町を行くときも、野に行くときも、僕は常に君の詩をふところにし、そして絶えず口吟み朗吟してゐた。僕はすつかり、君の小曲を諳誦してしまつた。その頃、丁度同じ北原氏の雜誌に僕も詩を書いてゐた。だが僕は、君によつてすつかり征服され、到頭競爭の念を捨ててしまつた。僕は君の弟子になり、改めて始めから詩を學ばうと決心した。僕は或る日、まだ見ぬ君に對する敬愛と思慕の念に耐へかねて、長い戀文のやうな手紙をかいた。その手紙では、僕は弟子としての禮儀をつくした。僕は君の靴の紐を解くだに足りないもの、數ならぬ砂利の一つだと書いた。それほど君の藝術が、魔力のやうに僕を魅惑してしまつたのだ。

翌年の春になつて、雪の深い北國の金澤から、君は土筆のやうに旅に出て來た。我々は始めて逢つた。そして櫻の莟が脹んでゐる前橋公園の堤防を、二人は寒さうに竝んで歩いた。君は田舍の野暮つたい文學書生のやうに、髮の毛を垢じみて長くはやし、ステツキをついて肩を四角に怒らせてゐた。單に風采ばかりでなく、君の言行の一切が田舍臭く、野卑の限りをつくしてゐた。どこか君の言行の影に、田舍新聞の印刷インキの臭ひがした。君は絶えず言つた。

「我々は大家です。」

「君の所に記者が來ますか。僕は××新聞の訪問記者に對して、詩に關する談話をしてやつたです。」

萩原朔太郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本