四つの都
本文約30,900字 ・ 読了時間 約62分
あらすじ(AIが作成しました)
夕陽丘の口縄坂から始まる本作は、復員した軍医中尉・庄平を軸に展開する。庄平は地域医療に従事しながら、ある古レコード店「名曲堂」との関わりや、大阪、京都、奈良、神戸という四つの都会を巡る人々との交流を描く。帰還直後の一週間という短い時間の中で、庄平は理想的な現代青年の型を体現し、自身の仕事を通じて他者とつながり、偶然の出会いから新たな関係性を築いていく。都市の地理を辿るように物語は進行し、勤労に挺身する女性たちの姿を交えて各地を繋ぎ合わせていく。
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『四つの都』の起案より脱稿まで
『四つの都』は川島雄三氏の第一回演出作品であるが、同時に私にとっても第一回シナリオである。更に言うならば、川島氏も私も共に大正生れである。つまりお互いの感受性、物の考え方に世代的な共通点を持っているのだ。『四つの都』にいくらか新しい意義があるとすれば、この二つの点ではなかろうかと私は考えている。
私は小説家である。小説家がシナリオを書くという例しは、最近は稀である。私自身もシナリオを依頼されようとは殆んど考えたことはなかった。それ故、大船撮影所企画部の海老原氏より、川島氏の第一回作品のシナリオを書いてくれまいかという話があった時、私は正直なところ驚いた。海老原氏が川島氏とそれから同じく新人演出家の池田浩郎氏と一緒に来阪されて、四人で語り合い、具体的な注文を伺ったが、それは、私の「清楚」という新聞小説(大阪新聞に連載した)を映画化する計画があるが、条件として原作者の私自身の手でシナリオ化してほしい、それがいやなら、新しくオリジナル・シナリオを書いてほしい、という注文だった。つまり、是が非でもシナリオを一本書くべしというのっぴきならぬ命令である。いわば私は見込まれたのである。私はことの意外に驚きながら、見込まれた理由を訊してみた。第一回演出作品に素人のシナリオを選ぶことは冒険に過ぎやしないだろうか、それに私のシナリオ・ライタとしての適不適も未知数(かつて溝口氏のために「わが町」のストーリを書いたことはあるにせよ)であるし、恐らく大船の内部でも異論はあるのではなかろうかと。
ところが訊いてみると、私の小説には映画的な話術と感覚があるらしいのだ。だから、シナリオも書けないことはあるまいとのおだてであった。なるほどそう言われてみれば、かつて親友杉山平一君より、君のあの小説のあそこはシナリオだねといわれたこともあったっけと、私はあっという間にこのおだてに乗ってしまった。私はその場で答えた。書いてみましょう、しかし「清楚」一本では映画にならないかも知れないと。