TRENDIA CLASSIC

武蔵旅日記

山中貞雄

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T 芸州広島  弥生ヶ岡の  花時雨

S=弥生ヶ岡  花が散る、花が散る。  群集がワーと喚声を挙げた。  大声に、 T「喜平次の  馬鹿野郎!  斬られて了え!」(少し大きな字)  有馬喜平次を先頭に紫羽織十五人組が抜刀でじりじり迫る。  群集、 T「宮本先生  其奴を  叩ッ斬って下され!」(文字少し大きく)  宮本武蔵、両刀を抜いて毅然と立つ。  群集が又、 T「喜平次は  鬼だ!」(少し大きく)  と言って、 T「此の町の毒虫だ!」(少し大きく)  紫羽織の一人、怒って武蔵に斬って掛かる。  一足退いて武蔵、其奴を叩ッ斬る。  ワーと挙がる喚声。  乱闘、派手な奴。  群衆の喚声。  武蔵の大奮戦。  遂に喜平次、叩ッ斬る。  ワーと挙がる見物の喚声。(F・O)

S=大川  乗合舟。  大勢の乗客の中に旅の商人が一人、  (薬売の様な風体)  それが、話し手である。 T「その宮本先生の  強い事、強い事」  と言って、 T「先づ  日本一で  御座んしょうね」  と言った。  感心する乗合の客。  舟端で聞くとも無しに此の話を聞いて居た、女賊白狐のおしまが、そッと微笑んだ。  そして、独り言、 T「そんな強い先生に  一度、遭って  見たい」  と言った。  川の流れ。(F・O) T 兎も角  当時、宮本武蔵の名は  津々浦々に響き渡っていた

S=道場の表  念流剣道指南、森脇左十郎の門外である。  今しも、その表に立ち止った一人の武者修業の侍(早水団九郎)  のこのこ門内へ入る。

S=玄関で  団九郎が取次の侍に向って大声挙げて叫んだ。 T「拙者、天下の浪人  宮本武蔵政名と  申す者」  「ソーラ来た」と取次の侍早顔色が無い。  団九郎、尚も大声に、 T「先生に一本  御手合せ  願い度く」  取次の侍「暫時御待ちの程を」と言って、  泡喰って、奥へ注進する。  してやったりと団九郎、ほくそ笑んだ。 (F・O)

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