泥葬
本文約630字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
屍臭を放ち青みどろに絡まれる腐り船や、寝静まった街を歩く星夜の情景を詩的に書き綴る。また、池袋から神田に至る日常的な街歩き、蛾の群がる夢を見た日の心理的揺らぎ、恋人の家でのやるせない夜の記憶、そして物が散乱し戦場のように荒廃していく室内の様子などを、断章形式で収める。詩人・竹内浩三が戦時下における日常の光景や内面的な孤独を、独自の視点と感性で描き出す一冊である。
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われ、山にむかいて、目をぞあぐる。わがたすけは、いづくよりきたるならん。
(讃美歌第四百七十六) 腐り船 鼻もちならねえ、どぶ水なんだ。屍臭を放つ腐り船が半沈みなんだ。青みどろなんかが、からみついてるんだ。
舷側にたった一つ、モオゼのピストルが置いてあるんだ。しかも、太陽はきらきらしているんだ。
星夜 月はないけれど、星が一杯かがやいていた。気色のわるいほど、星には愛嬌があった。
ぼくは、ワイシャツのはじをズボンからはだけさせて、寝静まった街を歩いていた。
日記 ふしぎな日であった。池袋でも、新宿でも、高円寺でも、そして神田でも、友だちに会った。彼らは、みんなぼくにあいそよくしていた。
中野のコオヒイ店で、ぼくに会った時には、ぼくはまったくびっくりしてしまった。
フロイド 女のことばかり考えている日があった。
机の上に、蛾がごまんと止まっている夢を見た日であった。
その日の夕刻には、衛生器具店の陳列棚を眺めて暮らした。
オンナ そのころ、ぼくは、恋人の家によく泊ったものだ。となりの部屋で、恋人の兄貴と一緒に寝たものだ。
すると、ある夜、恋人が手淫をはじめたらしい物音がしてきたんだ。あのときほど、やるせなく思ったことはなかった。
戦場 十畳の部屋は、戦場のように崩れていった。
裸の書物や、机から落ちたインキ壺や、裏むきになった灰皿や、ゲートルと角力を取っている屑フィルムや、フタのないヤカンが、その位置で根を張りだした。手のほどこしようは、もうとっくになくなった。どうにでもなりくされ。
完