TRENDIA CLASSIC

めたん子傳

室生犀星

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めたん子はしぜん町の片側に寄り切られ、皮紐とか棒切れとかで、肩先や手で小突かれ、惡い日は馬ふんを蹶とばして、ぶつかけられてゐた。めたん子は抵抗する氣が全然失せてゐて、對手をちよつと見返るだけで、その眼には何時も怒りは封じられてゐて、怒ることが出來ないのだ。皮膚は熟柿色で眼はやぶ睨みをしてゐるのが、友達仲間から厭がられ、憎まずにゐられないのである。これは人間に與へられてゐる皮膚の色ではない。

めたん子はだから朝の登校時間も早目に出るのだが、性來のぐづのろで歩くのに手間がかかり、途中で友達仲間によく打つかつてゐた、一たん仲間につかまると早足で逃げることなぞ、氣合をうけて出來なくなり、一層遲足になつて仲間から充分に調戲はれいぢめられるのである。めたん子もそんないぢめられる厭な時間を、自分から待ち設けてゐるやうなのろくささで、肩を小突かれ背中から押し倒されようとしても、却つてお愛想笑ひをするくらゐである。一度でも、朝の内にいぢめられてゐた方がその日一日あんらくなやうな氣がし、泥でも藁繩でも打つかけられるままにされてゐる。めたん子はそれが當然自分の受ける折檻であつて、受けない日が友達仲間の手拔かりであり、馬鹿忘れしてゐるやうに思はれた。だからめたん子は町の片側を歩いてゆき、溝板があればその溝板づたひに行くのである。それだけでも、仲間を恐れることを仲間に知らせたい、媚であつた。

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