TRENDIA CLASSIC

神のない子

室生犀星

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ミツは雨戸に鍵をかけて出かけたが、その前に勘三も仕事に出かけた。

あん子は晝まで表に出て、土橋の石に日の當る光の加減を見て、母親が食事の用意に歸つて來るすがたを、町端れから、町の方に眺めた。ミツは雨戸を開けあん子に飯を食べさせ、自分も食べ、やはり晝に戻る勘三にも食べさせた。

三人の食事が終ると、あん子はまた表に出た。母親のミツは雨戸に鍵をかけあん子に眼もくれないで町の方に往つた。あん子が何時も閉め出されてゐるのは、家の物品を持ち出さない要心と、火の用心も兼ねてゐたのだ。

あん子は家の周圍と、裏の低い山、瘠せた川のあひだで何時も一人で遊んだ。家の裏手とか腰板つづきの、人の氣づかない處で石をつみ重ね、板切れで家のやうな物を建てて夕方には毀して去つた。あん子は八歳になり十歳になり十三歳になつた。

九歳の時に裏山に拉れこまれた。

あん子はその青年の言ひなりのことをしてやつただけで、亂暴はうけなかつた。青年は後も振りかへらずに山を下りて往つて、それを見送つたあん子はその翌日もその場所にゆき、其處の草の上に坐つて町の背後にあるキラキラする海の景色を眺めた。間もなく暖かい水に變らうとする海づらは、いつになく眩しすぎるやうであつた。青年があとをも見ずに往つたことが、そんなふうにするのが恥づかしいためだらうと思つた。その翌日も、翌々日も芒のでかい株のある窪地にいつてみたが、海は益々眩しく青年は何處にもぶらついてゐなかつた。

好んで川をぢやぶぢやぶ渡ることの好きなあん子は、もう十四歳になつた。あん子が川を渡ると、水が白くちぢれ裂かれて、川底に達したかがやきが再び亦あん子の大腿部に飛びついて、さらに水の上に還つてくだけた。

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