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TORENDIA

われから

本文約22,600字 ・ 読了時間 約46分

あらすじ(AIが作成しました)

霜夜の留守宅で夫の帰りを待つ妻は、書生・千葉の部屋を訪ねて炭を継ぎ、孤独と不安を紛らわせる。その親切が周囲の誤解を招き、良人である恭助の耳にも不義の噂として届いてしまう。世間の批判や内政の乱れに悩む恭助は、ついに妻を離別し、谷中の家へ移すことを宣告する。身に覚えのない罪を問われた妻は、困窮と絶望の中で夫に縋りつくが、容赦なく突き放され、孤独な境遇に追い込まれていく様を描く。

樋口一葉

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一

霜夜ふけたる枕もとに吹くと無き風つま戸の隙より入りて障子の紙のかさこそと音するも哀れに淋しき旦那樣の御留守、寢間の時計の十二を打つまで奧方はいかにするとも睡る事の無くて幾そ度の寢がへり少しは肝の氣味にもなれば、入らぬ浮世のさま/″\より、旦那樣が去歳の今頃は紅葉舘にひたと通ひつめて、御自分はかくし給へども、他所行着のお袂より縫とりべりの手巾を見つけ出したる時の憎くさ、散々といぢめていぢめて、困め拔いて、最う是れからは決して行かぬ、同藩の澤木が言葉のいとゑを違へぬ世は來るとも、此約束は決して違へぬ、堪忍せよと謝罪てお出遊したる時の氣味のよさとては、月頃の痞へが下りて、胸のすくほと嬉しう思ひしに、又かや此頃折ふしのお宿り、水曜會のお人達や、倶樂部のお仲間にいたづらな御方の多ければ夫れに引かれて自づと身持の惡う成り給ふ、朱に交はればといふ事を花のお師匠が癖にして言ひ出せども本にあれは嘘ならぬ事、昔しは彼のやうに口先の方ならで、今日は何處處で藝者をあげて、此樣な不思議な踊を見て來たのと、お腹のよれるやうな可笑しき事をば眞面目に成りて仰しやりし物なれども、今日此頃のお人の惡るさ、憎くいほどお利口な事ばかりお言ひ遊して、私のやうな世間見ずをば手の平で揉んで丸めて、夫れは夫れは押へ處の無いお方、まあ今宵は何處へお泊りにて、昨日はどのやうな嘘いふてお歸り遊ばすか、夕かた倶部樂へ[#「倶部樂へ」はママ]電話をかけしに三時頃にお歸りとの事、又芳原の[#「芳原の」はママ]式部がもとへでは無きか、彼れも縁切りと仰しやつてから最う五年、旦那樣ばかり惡いのでは無うて、暑寒のお遣いものなど、憎くらしい處置をして見[#ルビの「せ」はママ]せるに、お心がつひ浮かれて、自づと足をも向け給ふ、本に商賣人とて憎くらしい物と次第におもふ事の多くなれば、いよ/\寢かねて奧方は縮緬の抱卷打はふりて郡内の蒲團の上に起上り給ひぬ。

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