TRENDIA CLASSIC

かたつむり

鈴木三重吉

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トゥロットのお母ちやまは、朝、いろんな人たちと一しよに、馬車でそとへお出かけになりました。ド・ヴレーさんといふよそのをぢさまが、馬のたづなをとり、もう一人のをぢさまがラッパをならして、みんなでたのしさうに出ていきました。トゥロットは、ちひさくて、足手まとひになるので別荘にのこされました。

トゥロットは、女中のジャンヌと二人であそぶつもりでゐたのですのに、お母ちやまはトゥロットがたいくつするだらうとおもつて、先生のミスに、来てやつて下さいとおたのみになつたものです。トゥロットは、あゝあと、がつかりしました。お母ちやまは、トゥロットにさうだんもなさらないで、いやな人をおよびになるのですからたまりません。

ミスはお庭のおくのべンチにこしかけて、偉大なお鼻の上にめがねをのつけて、顔中のすぢ一つさへうごかさないで、自動器械のやうに、さく/\とご本をめくつてゐます。トゥロットは、ミスにしかられないやうに、何かわるくないことをして、時間をつぶさなければなりません。それでさん/″\かんがへて、けふはお庭の中をくはしく見て歩いてみようとおもひつきました。

今は、庭もかなりあれてゐて、砂利だの、やせた芝のごみだの、木のきれはしなぞが、ちらかつたりしてゐますが、でもまん中どころにあるバラの木だけは、人の目を引きつけないではおきません。とてもすばらしい、いゝバラの木で、とき/″\花がさきます。けふも、ちようど一つ、大きくさきひらいてゐます。トゥロットは、その花をうつとりと、いろんな方がくからながめました。それは何ともいへない、きれいな花です。

と、そのうちに、きふにトゥロットの目は、大きくまるくなつて、じつと一ところを見すゑました。ほう、こはいものがゐる。バラの葉の上にかたつむりがのそ/\うごいてゐます。おゝ、いやなやつ。うしろにきら/\したあとをひいて、頭を右にまはしたり左にまはしたり、つのを出したり、ひつこめたりしてゐます。ちつとも、ゑんりよなんかしてゐやしません。トゥロットは、しばらく、じつと見つめたのちに、するどい声をたてゝミスをよびました。

「ミス、来てごらんなさい。」

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