本文へ移動
TORENDIA

D坂の殺人事件

本文約22,000字 ・ 読了時間 約44分

あらすじ(AIが作成しました)

蒸し暑い晩、D坂のカフェにいた私は、向かいの古本屋の異変に気づく。やがて合流した知人の明智小五郎と共に店へ向かうと、そこには事件が発生していた。十日後、明智の部屋を訪ねた私は、彼が独自の推理からこの事件の真相に辿り着いたことを知る。明智は被害者と加害者の秘められた関係性や、事件が起こるに至った背景を語るが、その最中に犯人が自首したという報せが届く。

江戸川乱歩

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 30

(上)事実

それは九月初旬のある蒸し暑い晩のことであった。私は、D坂の大通りの中程にある、白梅軒という、行きつけのカフェで、冷しコーヒーを啜っていた。当時私は、学校を出たばかりで、まだこれという職業もなく、下宿屋にゴロゴロして本でも読んでいるか、それに飽ると、当てどもなく散歩に出て、あまり費用のかからぬカフェ廻りをやる位が、毎日の日課だった。この白梅軒というのは、下宿屋から近くもあり、どこへ散歩するにも、必ずその前を通る様な位置にあったので、随って一番よく出入した訳であったが、私という男は悪い癖で、カフェに入るとどうも長尻になる。それも、元来食慾の少い方なので、一つは嚢中の乏しいせいもあってだが、洋食一皿注文するでなく、安いコーヒーを二杯も三杯もお代りして、一時間も二時間もじっとしているのだ。そうかといって、別段、ウエトレスに思召があったり、からかったりする訳ではない。まあ、下宿より何となく派手で、居心地がいいのだろう。私はその晩も、例によって、一杯の冷しコーヒーを十分もかかって飲みながら、いつもの往来に面したテーブルに陣取って、ボンヤリ窓の外を眺めていた。

江戸川乱歩の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本