TRENDIA CLASSIC

魔術師

江戸川乱歩

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作者の言葉

わが明智小五郎は、遂に彼の生涯での最大強敵に相対した。ここに『蜘蛛男』の理智を越えて変幻自在なる魔術がある。魔術師は看客の目の前で生きた女を胴切りにしたり、箱詰めの小女を剣の芋刺しにしたり、彼女を殺害して鮮血したたる生首を転がして見せたり、或は立所に人を眠らせ、自由自在の暗示を与え、或は他人の心中持物を看破するなど、あらゆる奇怪事を行うことが出来る。

兇賊がこれらの怪技の妙奥を会得していた場合を想像せよ。流石の名探偵明智小五郎もこの魔術師の心理的或は物理的欺瞞には、いたく悩まされねばならなかった。

魔術兇賊とは何者であるか。それがどんなに意外な人物であるか。又彼はそもそも如何なる悪業を企んだのか。そして、明智小五郎はよくこの大敵に打勝つことが出来たか否か。名探偵と魔術師の争闘こそ見ものである。

「講談倶楽部」昭和五年六月号より [#改ページ]

美しき友

新聞紙は毎日の様に新しい犯罪事件を報道する。世人は慣れっこになってしまって、又かという様な顔をして、その一つ毎に、さして驚きもしないけれど、静かに考えて見ると、何と騒々しく、いまわしい世の中であろう。広い東京とは云いながら、三つや四つ、血なまぐさい、震え上る様な犯罪の行われぬ日とてはない。今の世に、十九世紀の昔語りにでもあり相な、貰い子殺しの部落が現存するかと思うと、真実の弟を叩き殺して、つい門前の土中に埋め、その御手伝いをさせたもう一人の弟を狂人に仕立てて、気違い病院に放り込むなど、まるで涙香小史飜案する所の、フランス探偵小説みた様な、奇怪千万な犯罪すら行われているのだ。

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