TORENDIA
書簡 大杉栄宛
伊藤野枝
TORENDIA
書簡 大杉栄宛
本文約540字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
千葉県御宿の上野屋旅館に滞在する書き手が、去った相手を想い、その不在による寂しさや現在の心境を綴る。部屋に残された浴衣や座布団に目を留め、眠りから覚めた後の静かな夕べの様子を詳述する。離れていても落ち着いた気持ちを保ち、滞在先での執筆活動への意欲を示す手紙であり、相手への親密な心情と日々の生活の一端を伝える内容である。
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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
停車場を出ると、前の支店でしばらく休んで、それから宿に帰へりました。帰つてからも室にゆくのが何んだかいやなので、帳場で話をして、それから室にはいると直ぐあの新聞を読んで、中央公論を読んで仕舞ひました。思つたほど何んでもなかつたので、すつかりつまらなくなつて室中を見まはしました。何も彼も出かけた時のままになつてゐます。座蒲団が二つ、それからたつた今まであなたが着てゐらしつた浴衣。それを見てゐると急にさびしくなりました。
枕を引きよせてもう何にも考へまいと思つて横になると、五時頃まで眠りました。それから起されてお湯にはいつて、子供を寝かして、御飯をすませて、今煙草を一本のんだところです。それから菊池(幽芳)さんに手紙を書かうと思つてペンをとりますと、先づやつぱりあなたに書きたいので書き初めたのです。今時分は四谷(堀保子)のお宅にでもゐらつしやるのでせうね。
あなたが行つてお仕舞ひになると、私の気持もさびしく閉ぢ、天気も曇つて風が出てまゐりました。潮の遠鳴りが一層聞えます。でも、大変静かな、落ちついた気持でゐられます。この分では仕事もずん/\進むでせう。
[『大杉栄全集』第四巻、大杉栄全集刊行会、一九二六年九月]
完
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