書簡 大杉栄宛
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
千葉県御宿の旅館に滞在する著者が、滞在中の自身の我儘や片意地について大杉栄へ宛てた書簡を綴る。共に過ごす中で素直になれず沈黙してしまう自己の癖や、離れている時の方がかえって冷静でいられるという矛盾した心理状態を吐露する。相手への複雑な愛情と、一人で仕事に打ち込みたいという決意、そして再会への願いを伝える内容である。
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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
今日私はあなたがおたちになる前に、二三日前からの私の我儘をお詫びして許して頂かうと思ひましたの。それで、幾度も幾度もあなたの処に行くのですけれど、何んだか自然であなたに話しかける事がどうしても出来ませんでしたの。さうして、とうたう又あなたの方から口をお切りになりましたのね。さうして、私があなたに向つて云はうとする事を、あなたが私に仰云つたのですもの、私本当に自分の小さな片意地がいやになつて、あなたに申訳けがなくて、それで泣きましたの。
自分で、我儘な事も片意地も何も彼も皆なよく解つてゐて、そしてつまらない事に拗ねて、気持の悪い思ひをする事が、どんなに馬鹿々々しいかと云ふ事も知りながら、それでどうしても素直でない自分が忌々しくて仕方がないのです。一昨日から、私は自分のその悪い癖をあなたに話して、もう決してそんなまねをしないようにしようと幾度思つたか分りません。そしてすつかりあなたにお話しする事も出来てゐながら、今度は本当にあなたにお話しようとしますと、前からきめて話す事は如何にも不自然らしくて厭やになつて仕舞ふのです。それでつい黙つて仕舞ふのです。さうすると今度は、猶一層いけない私の癖が、また私を怒らすのです。
自分の頭で考へた事を直ぐに決して話さないと云ふこと。私はそのためにどんなにあなたにいやな思ひをさせたかを知つてゐるのです。知りながら、その癖に打ち勝てない自分に反感を起さずにはゐられないのです。それを考へますと、私は直ぐメランコリイになるのです。それをあなたが御覧になると、あなたも直ぐ不快におなりになるし、それが今度は私の方にはまた一層強く来るのです。さうして、だん/\に気持が妙に外れて来るのを見てゐますと、私はもうたまらなくなるのです。