呪はれた手
本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
都会から帰郷し父の家に居候する作家は、継母と妻の間の激しい確執に悩まされている。継母による度重なる罵倒に耐えかねた妻は実家への帰省を主張する。この家庭の板挟みとなり疲弊する父を案じつつも、作家は長女の不用意な言動を咎めてつい手を上げてしまう。継母の冷笑的な態度を目の当たりにした作家は、何も解決できず妻と子供たちを送り出した後に、自身の無力さと衝動的な行動を呪いながら自己嫌悪に陥る様子を描く。
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彼が、机の上の原稿紙に向つてペンを動かしてゐると、細君が外からべそ面して、駈け込むやうに這入つて来た。五つになる二女がおい/\泣いてついて来た。――また継母にやり込められたのだ。
困つたものだ――と彼は眉を寄せて、ペンを置いて、細君がおろ/\声して、例のヒステリー声して、訴へるのを聴いた。
それは今朝、彼の八つになる長女が、学校へ行く前に、継母の貰ひ子の十二になるお春と口争ひをしたのだ。その時長女は、「お前やばあさん(継母のこと)なんか、山の畑へ行つたきり一生帰つて来なければいゝ」、とお春に言つたのだ。それをお春は継母に告げたのだ。そこで継母は好いきつかけにして、彼の細君に当つて来たのだ。
「たつた今のうちに皆出て行つちまへ! 誰のかまどでもない、おれのかまどだぞ、ひとのかまどを喰ひ潰してゐて、そんたらこと言ふものどもは、たつた今のうちに出て行け!」継母は斯う呶鳴り散らしたのだ。
「何と言はれたつて、今暫らくのことだがね、辛抱するさ。そんなこと一々気にしたつて仕方が無いよ。……あんな性質の人なんぢやないか」
彼は斯う言つて細君をなだめにかゝつた。
「いゝえ駄目です」と、細君はかぶりを振つた。「それはあなたは子供のことだから、何と言はれても平気で居られるか知れませんが、私は嫁ですもの。あんなにまで言はれて居る訳には行きません。それで、あなたのそれが出来あがつてお金の来る間、私は子供達をつれて実家へ行つて来ます」
細君は斯う言ひ張るのだ。
斯うなつては駄目だ――と彼も思つた。またヒステリーでもおこされては大変だと思つたのだ。それで、「では兎に角おやぢとも相談して来よう」斯う言つて、自在鍵のかゝつた炉辺をたつたのだ。