贋物
本文約21,400字 ・ 読了時間 約43分
あらすじ(AIが作成しました)
福島駅で列車を待つ耕吉は、埼玉の紡績会社から逃げ出した小僧と出会い、警察に同行する。小僧の身の上話や雪国へ帰るという自身の予感に、耕吉は新たな生き方を空想し希望を抱く。その後、秋田の弟の家を訪ねた耕吉は、自身の亡霊の存在を語る。さらには故郷に伝わる品々を売って旅費を得ようと骨董屋を回るが、全て贋物であると判定され、期待は打ち砕かれる。宛のない返信を待ちながら、耕吉は追い詰められた状況で焦燥を募らせていく。
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一
車掌に注意されて、彼は福島で下車した。朝の五時であった。それから晩の六時まで待たねばならないのだ。
耕吉は昨夜の十一時上野発の列車へ乗りこんだのだ、が、奥羽線廻りはその前の九時発のだったのである。あわてて、酔払って、二三の友人から追いたてられるようにして送られてきた彼には、それを訊ねている余裕もなかったのだ。で結局、今朝の九時に上野を発ってくる奥羽線廻りの青森行を待合せて、退屈なばかな時間を過さねばならぬことになったのだ。
が、「もとより心せかれるような旅行でもあるまい……」彼はこう自分を慰めて、昨夜送ってきた友だちの一人が、意味を含めて彼に贈ってくれたところのトルストイの「光の中を歩め」を読んでいた。
ストーヴのまわりには朝からいろいろな客が入替った。が耕吉のほかにもう一人十二三とも思われる小僧ばかりは、幾回の列車の発着にも無頓着な風で、ストーヴの傍の椅子を離れずにいた。小僧はだぶだぶの白足袋に藁草履をはいて、膝きりのぼろぼろな筒袖を着て、浅黄の風呂敷包を肩にかけていた。
「こらこら手前まだいやがるんか。ここは手前なぞには用のないところなんだぜ。出て行け!」
掃除に来た駅夫に、襟首をつかまえられて小突き廻されると、「うるさいな」といった風で外へ出て行くが、またじきに戻ってきて、じっとストーヴの傍に俯向いて立ったりしていた。
「お前どこまで行くんか?」耕吉はふと言葉をかけた。
「青森まで」と小僧は答えた。青森というのは耕吉の郷国だったので、彼もちょっと心ひかれて、どうした事情かと訊いてみる気になった。
小僧は前借で行っていた埼玉在の紡績会社を逃げだしてきたのだ。小僧は、「あまり労働が辛いから……」という言葉に力を入れて繰返した。そして途中乞食をしながら、ほとんど二十日余りもかかって福島まで歩いてきたのだが、この先きは雪が積っていて歩けぬので、こうして四五日来ここの待合室で日を送っているのだというのであった。
「巡査に話してみたのか?」
「話したけれど取上げてくれない」