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TORENDIA

そぞろごと

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

山の動きや女の覚醒を謳う詩から、日々の生活の中にある鋭敏な感覚や、周囲の男性への複雑な想い、そして芸術に対する独自の視座を綴る随筆・詩歌集。著者は自らの内面を一人称で赤裸々に表現することにこだわり、剃刀や煙草、青い蚊帳といった日常の断片を鋭い感性で切り取る。女性の在り方や創作に対する情熱、そして世俗的な価値観への反骨精神を込めた言葉の数々を収める。

與謝野晶子

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🎧 そぞろごと / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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○

山の動く日來る。

かく云へども人われを信ぜじ。

山は姑く眠りしのみ。

その昔に於て

山は皆火に燃えて動きしものを。

されど、そは信ぜずともよし。

人よ、ああ、唯これを信ぜよ。

すべて眠りし女今ぞ目覺めて動くなる。

○

一人稱にてのみ物書かばや。

われは女ぞ。

一人稱にてのみ物書かばや。

われは。われは。

○

額にも肩にも

わが髮ぞほつるる。

しをたれて湯瀧に打たるるこころもち。

ほとつくため息は火の如く且つ狂ほし。

かかること知らぬ男。

われを褒め、やがてまた[#「また」はママ]譏るらん。

○

われは愛づ。新しき薄手の玻璃の鉢を。

水もこれに湛ふれば涙と流れ。

花もこれに投げ入るれば火とぞ燃ゆる。

愁ふるは、若し粗忽なる男の手に碎け去らば。――

素燒の土器より更に脆く、かよわく。

○

青く、且つ白く、

剃刀の刄のこころよきかな。

暑き草いきれにきりぎりす啼き、

ハモニカを近所の下宿に吹くは懶けれども。

わが油じみし櫛笥の底をかき探れば、

陸奧紙に包まれし細身の剃刀こそ出づるなれ。

○

にがきか、からきか、煙草の味は、

煙草の味は云ひがたし。

甘しと云はば、かの粗忽者

砂糖の如く甘しとや思はん。

われは近頃煙草を喫み習へど、

喫むことを人に秘めぬ。

蔭口に男に似ると云はるるもよし。

唯おそる。かの粗忽者こそいと多なれ。

○

「鞭を忘るな」と

ツアラツストラは云ひけり。

女こそ牛なれ、また羊なれ。

附け足して我は云はまし。

「野に放てよ。」

○

わが祖母の母はわが知らぬ人なれど、

すべてに華奢を好みしとよ。

水晶の珠數にも倦き、珊瑚の珠數にも倦き、

この青玉の珠數を爪繰りしとよ。

我はこの青玉の珠數を解して、

貧しさに與ふべき玩具なきまま、

一つ一つ兒等の手に置くなり。

○

わが歌の短ければ、

言葉を省くと人おもへり。

わが歌に省くべきもの無かりき。

また何を附け足さん。

わが心は魚ならねば鰓を有たず、

ただ一息にこそ歌ふなれ。

○

すいつちよよ、すいつちよよ。

初秋の小き篳篥を吹くすいつちよよ。

蚊帳にとまれるすいつちよよ。

汝が聲に青き蚊帳は更に青し。

すいつちよよ、なぜに聲をば途切すぞ。

初秋の夜の蚊帳は水銀の如く冷きを。

すいつちよよ、すいつちよ。

○

油蝉のじじ、じじと啼くは、

アルボオス石鹹の泡なり、

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