TRENDIA CLASSIC
生涯の垣根
室生犀星
1 / 17
庭というものも、行きつくところに行きつけば、見たいものは整えられた土と垣根だけであった。こんな見方がここ十年ばかり彼の頭を領していた。樹木をすくなく石もすくなく、そしてそこによく人間の手と足によって固められ、すこしの窪みのない、何物もまじらない青みのある土だけが、自然の胸のようにのびのびと横わっている、それが見たいのだ、ほんの少しの傷にも土をあてがって埋め、小砂利や、ささくれを抜いて、彼は庭土をみがいていた、そして百坪のあふるる土のかなたに見るものはただ垣根だけなのだ、垣根が床の間になり掛物になり屏風になる、そこまで展げられた土のうえには何も見えない、彼は土を平手でたたいて見て、ぺたぺたした親しい肉体的な音のするのを愛した。土はしめってはいるが、手の平をよごすようなことはない、そしてこれらの土のどの部分にも、何等かの手入れによって、彼の指さきにふれない土はなかった。土はたたかれ握り返され、あたたかに取り交ぜられて三十年も、彼の手をくぐりぬけて齢を取っていた。人間の手にふれない土はすさんできめが粗いが、人の手にふれるごとに土はきめをこまかくするし、そしてつやをふくんで美しく練れて来るのだ。
室生犀星の他の作品
TRENDIA CLASSIC
芥川の原稿
室生犀星
芥川の原稿
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
愛の詩集
室生犀星
愛の詩集
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
あじゃり
室生犀星
あじゃり
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
老いたるえびの
うた
室生犀星
老いたるえびのうた
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
命
室生犀星
命
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
荻吹く歌
室生犀星
荻吹く歌
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
お小姓児太郎
室生犀星
お小姓児太郎
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
音楽時計
室生犀星
音楽時計
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
懸巣
室生犀星
懸巣
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
蒼白き巣窟
室生犀星
蒼白き巣窟
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
蛾
室生犀星
蛾
室生犀星
TRENDIA CLASSIC
冠松次郎氏にお
くる詩
室生犀星
冠松次郎氏におくる詩
室生犀星