生涯の垣根
本文約11,200字 ・ 読了時間 約23分
あらすじ(AIが作成しました)
庭の手入れと土の美しさを愛する男は、長年連れ添った植木屋の民さんと共に、庭に空漠たる世界を築き上げていく。男は猫が庭に爪あとを残すことすら嫌い、庭を神聖な場所として管理する。月日が経ち、民さんと再会した男は、かつて名付け親となった民さんの息子・秋彦を伴って、再び庭の整備に勤しむ。庭という限定された空間を通して、職人との歳月や土に向き合う人間の静かな情熱と、移ろいゆく日々の営みを綴る。
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庭というものも、行きつくところに行きつけば、見たいものは整えられた土と垣根だけであった。こんな見方がここ十年ばかり彼の頭を領していた。樹木をすくなく石もすくなく、そしてそこによく人間の手と足によって固められ、すこしの窪みのない、何物もまじらない青みのある土だけが、自然の胸のようにのびのびと横わっている、それが見たいのだ、ほんの少しの傷にも土をあてがって埋め、小砂利や、ささくれを抜いて、彼は庭土をみがいていた、そして百坪のあふるる土のかなたに見るものはただ垣根だけなのだ、垣根が床の間になり掛物になり屏風になる、そこまで展げられた土のうえには何も見えない、彼は土を平手でたたいて見て、ぺたぺたした親しい肉体的な音のするのを愛した。土はしめってはいるが、手の平をよごすようなことはない、そしてこれらの土のどの部分にも、何等かの手入れによって、彼の指さきにふれない土はなかった。土はたたかれ握り返され、あたたかに取り交ぜられて三十年も、彼の手をくぐりぬけて齢を取っていた。人間の手にふれない土はすさんできめが粗いが、人の手にふれるごとに土はきめをこまかくするし、そしてつやをふくんで美しく練れて来るのだ。