TRENDIA CLASSIC

亜米利加の思出

永井荷風

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皆様も御存じの通り私は若い時亜米利加に居たことはありますが、何しろ幾十年もむかしの事ですから、その時分の話をしてみたところで、今の世には何の用にもなりますまい。米国がいかほど自由民主の国だからと云ってその国に行って見れば義憤に堪えないことは随分ありました。社会の動勢は輿論によって決定される事になって居ますが、その輿論には婦人の意見も加っているのですから大抵平凡浅薄で我々には堪えられなかった事も少くはありませんでした。ストラウスの楽劇サロメが演奏間際になって突然米国風の輿論のために禁止となった事などはその一例でしょう。ラフカジオ、ハーン(小泉八雲)が黒人の女を愛したようなことから世に容れられなくなった事なども所謂米国風輿論の犠牲と見るべきものでしょう。露西亜のゴルキイが本国を亡命して紐育に行ったことがあるが矢張輿論のために長くその地に留まることができなかったような事がありました。しかし目下日本の情勢では亜米利加人の欠点を指摘することはできませんからそのいい方面を思出してお話をしましょう。

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